(21日、第106回全国高校野球選手権奈良大会3回戦、智弁学園17―0高取国際)

 「松村いくぞ」。五回表、高取国際の松村壮馬(3年)は監督から声をかけられ、打席に向かった。17点の大差をつけられていたが、気持ちは途切れていなかった。

 初球の変化球を中前にはじき返すと、一塁を踏む前から「よっしゃー」と叫び、何度も激しくガッツポーズをした。「みんなが『変化球くるで』ってアドバイスしてくれたから狙っていた」

 昨年春、経験したことのないようなめまいが続き、受診すると、手術が必要な内臓の疾患が見つかった。7月末から1カ月ほど入院することになった。

 入院中、毎日のように連絡をくれたのが主将の村上和樹(3年)だった。体験入部の時からの仲で、長いときは2時間以上も電話した。不安な気持ちがまぎれ、早く練習がしたいとの思いが募った。

 だが、いざ退院して野球部に戻っても、練習をしすぎると熱が出て、体の不調に悩んだ。そして昨年10月ごろ、村上に「練習もできんし、もうやめたい」と打ち明けた。

 ずっと話を聞いてきた村上は驚かなかったが、「やりきったほうが、自分のためにもいいんちゃうか?」と本音をぶつけた。松村は思い直し、その言葉を支えに練習に取り組んできた。

 今大会は初戦でも代打で安打を放ち、サヨナラ勝ちにつなげた。松村は「2試合とも大事な場面で打つことができて、報われたんだなと思う。本当にみんなに助けられて続けられた」と笑顔だった。村上は「苦しい状況でも続けてくれてうれしかった。あいつがいてこその野球部だった」と涙ながらに話した。(佐藤道隆)

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