(16日、第106回全国高校野球選手権千葉大会3回戦、八千代松陰8―10専大松戸)

 スコアをつけるのを忘れ、ベンチから飛び出していた。

 5点を追う八回表。八千代松陰は連続四球などで3点差に迫った。なおも2死満塁の好機で代打に小林蓮武(3年)が送られた。「頼むぞ小林! お前が決めるんだよ!」。記録員でベンチに入るマネジャーの奥野耀太(3年)は叫んだ。

 小林は初球からバットを振っていき、2球目を中堅手の後方にはじき返した。走者一掃の3点適時打で同点に追いついた。奥野は喜びのあまりベンチを飛び出し、大木陽介責任教師に注意された。「記録をつけるのを忘れるくらい本当にすごい一本だった」

 すぐにベンチに戻り、興奮した様子でスコアブックに小林の打席を書き込んだ。

選手諦めたときに浮かんだのは両親の顔

 奥野は1月まで選手だった。昨秋、「冬までにAチームに上がれなかったら部活をやめる」と決意したが昇格できず、1月の始業式後に監督に退部を相談した。

 選手の道を諦めようとしたとき、真っ先に思い浮かんだのは両親の顔だった。同校卒業生の父は野球好きだが、家庭の事情で野球部には入れなかった。その分、家での練習に付き合ってくれ、野球道具をそろえてくれるなど支えてくれた。両親に退部の意思を伝えると、父は「一度も野球を辞めたいと言わなかったやつがそう言うってことは本気なんだろ」と気持ちに寄り添ってくれた。

 結局監督と話す中で野球が好きだと再認識し、マネジャーに転向した。

 選手時代は自分が競争で生き残ることに必死で周りのことが見えていなかったことに気づいた。

マネジャーになって気づいた仲間の一面

 この日、同点打を放った小林とは、1年のころに二塁手で一緒だった。当時「(小林を)ライバル視していた。おとなしい選手という印象だった」と打ち明ける。ただ、サポートに回ると、小林の冷静さと思い切りの良さを感じた。「今日も初球から振って思い切りが良かった」

 小林の後の打者も続き、勝ち越した。だが、今春の県大会を制した専大松戸は強かった。中山凱(3年)の3点本塁打で再逆転を許した。

 負けたけど、野球はやっぱり楽しかった。

 「たった一球で試合の流れや勝ち負けが変わる。今日の試合は野球の楽しさが詰まっていた。最後まで続けてきたご褒美になった」

 最後まで野球部を続けられたのは両親のおかげ。「ここまで続けさせてくれて、本当にありがたかった」。奥野は顔を真っ赤にして言った。=ZOZO(杉江隼、若井琢水)

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