(15日、第106回全国高校野球選手権奈良大会2回戦 磯城野5―4県大付)

 1点を追う九回裏1死二塁、県大付の主将大西悠生(3年)が打席に入った。一打同点の場面で、ベンチから「キャプテンの腕の見せどころや」と声援が飛ぶ。左前にはじき返すヒットで、二塁走者は三塁へ。一塁で思わず拳を突き上げた。

 2022年に開校した県大付は、この夏、初めて3学年がそろった。

 入学直後、大西は野球部創設に奔走した。部活動の希望調査には迷わず「野球部」と書き、坊主頭の同級生を見つけては手当たり次第、「野球やらへん?」と声をかけまくった。

 そんな中、同じクラスの押川鼓南(3年)が声をかけてきた。「弟が野球やっていて、高校から野球をやってみたい」。中学まで押川はサッカー部だった。大西は「いきなり硬式野球で大丈夫か」と不安に思ったが、熱意に押された。

 監督探しは押川の提案だった。「弟の少年野球チームの寺井孝文監督にお願いしてみよう」。2人で寺井監督の家を訪ね、直談判した。「何とか試合出来る人数が集まりました。公式戦で勝てるチームを作りたいんです」。30分以上も話すなかで、寺井監督は「彼らが本当に野球をやりたいという思いが伝わってきた」と振り返る。

 公式戦初勝利を目標に挑んだこの夏の大会初戦。雨で2度中断し4時間39分の長いゲームになった。5点差をつけられたものの、八回裏、4本の長短打などで4点を返し、あと一歩まで迫った。

 「結果は悔しいけれど、いろんな人に携わってもらって野球ができたことに感謝したい」。試合後、大西は泣きながらそう話した。七回に代打で出場し、三振に倒れた押川は「一から野球部を作ることができて、最後はみんなが応援に駆けつけてくれて幸せだった」と涙ながらに話した。

 寺井監督は「大西も押川も自分の役割を自覚して、チームを引っ張ってくれた」とたたえた。

 「一緒に野球ができて最高だった。ありがとう」。大西は押川にそう告げると、2人は握手をして球場を後にした。(佐藤道隆)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。