目を掛けてくれた「親」たちに恩返しを―。大相撲名古屋場所(7月14日初日・ドルフィンズアリーナ=中日新聞社共催)での新十両を決めた生田目(なばため)は、家庭の事情で中学から高校まで地元の児童養護施設で育ち、角界入りした。現在の関取では少数派の「高卒たたき上げ」という、こちらも珍しい経歴の22歳は「ゴールではなくスタート。親孝行したい」。その一心で稽古に励んでいる。(丸山耀平)

◆素質にほれ込んだ二子山親方

十両昇進を決め、師匠の二子山親方(右)と記者会見に臨んだ生田目

 小学生まではタイ出身の母・パチャヤさん(49)の下で育てられた。今も故郷の栃木で暮らし、離れ離れだった施設時代も全身で愛情表現してくれた。食肉関係の仕事をしており、ソーセージなどを部屋に差し入れてくれることも。「偉大な存在。離れて暮らして、お母さんの大切さに気付いた」と心から思う。  本格的に相撲を始めたのは栃木・矢板高に入学してから。高校では目立った成績を残せず、無名の存在だ。それでも二子山親方(元大関雅山)に「突き押しのスピードがある上に馬力もあった。なんで結果が出ないのかなと不思議に思うぐらい」と素質をほれ込まれた。熱心に口説かれた生田目竜也青年は「(師匠も)同じ突き押し。目指すところはここ」。相撲部屋では「父」でもある師匠を信じ、大相撲の門をたたいた。

◆水泳や卓球、野球、吹奏楽にも打ち込んだ

 初土俵の2020年初場所から着実に成長した。磨いた突き押しに加え、支えになったのが負けん気の強さ。原点の一つは中学時代にある。  手広く没頭した。水泳、卓球、野球。吹奏楽部ではテナーサックスを担当した。周囲には遊んでいる同級生もいる中、先生に言われた言葉が胸に響いた。「他の子が遊んでいるときにやれば、報われる」。実家を離れた身にとって親代わりの大人の諭しが、相撲での闘争心につながった。入門から4年半。十両昇進を確実にする夏場所の5勝目は、初観戦した母の目の前で挙げた。

◆土俵外の「番付」も急上昇

 土俵の外でも「番付」を上げつつある。YouTubeのチャンネル登録者数が30万人を超える「二子山部屋 sumo food」では、無心にちゃんこをほおばる姿や、ターンテーブルを使って趣味のDJのパフォーマンスも披露。ほのぼのとした陽気な人柄で人気を高めている。

大相撲名古屋場所の御免札=名古屋市中区で

 多くの「親」に恵まれ、実績や経験が乏しくても、一人前になれた。しこ名は本名のままだが、夢は師匠の「雅山」を継承すること。「継げるような力士になるまでしこ名は変えない。まだ、親方に恥ずかしくて言えないっすけどね」とちゃめっ気たっぷりに笑う。すくすくと育った「子」が、名古屋で夢への一歩を踏み出す。

◆関取の多くは外国出身と大学相撲出身

 昨今の角界は、外国出身と大学相撲出身の力士が席巻する。名古屋場所の番付表に載った関取70人のうち、外国出身は横綱照ノ富士ら14人。大卒(中退も含む)は5月の夏場所で史上最速優勝を果たした新関脇大の里ら30人で、この2つで過半数を占める。  数々の横綱を輩出し、大相撲の伝統である中学卒業後に入門した「中卒たたき上げ」は11人。対して高校卒業後に角界入りした力士は、これを上回る15人だった。

◆高校での実績が乏しくても勝負できる

 ただ高卒出身のうち全国大会制覇など主要なタイトルを獲得し、実績、実力ともに申し分ない力士は大関の貴景勝や琴桜ら9人いる。それらを除くと、若元春や阿炎ら幕内上位で活躍する関取はいるが、主立った実績なしのいわゆる「高卒たたき上げ」の生田目を含めわずか6人と最も少数となる。  力士の減少は著しく、今年1月の初場所で番付表に載った力士数は45年ぶりに600人を下回った。それだけに、生田目のような「名前のない力士」の出世は貴重だ。生田目は「実績がなくても関取に上がる姿を見て、後輩たちが大相撲に入ってくれたらうれしい」と願う。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。