(8日、第106回全国高校野球選手権群馬大会1回戦 前橋工2―9関東学園大付)

 あれが、春夏通算13度甲子園に出場した伝統校の主将の責任感だったのだろう。まさかのコールドで初戦に散った前橋工。だが、主将の小林右京(3年)は笑顔で報道陣の前に現れた。

 この1年、小林の脳裏に何度となく浮かんだ光景がある。昨年の3回戦。前橋工は関東学院大付にサヨナラ負けで散った。その打球は、2年生ながら二塁手で先発した小林の目の前を抜けていった。「もっともっと守備を磨く」と誓った。同じカードとなった今夏の初戦は、望み続けたリベンジマッチだった。

 前橋工が先手を取った。二回表に小林の適時二塁打で1点を先行。だが、直後に悪夢が待っていた。二回裏1死一塁から何でもない二ゴロを小林が捕球――しようとした瞬間、こぼした。併殺を焦った。痛恨の失策。同点に追いつかれた。つかみかけた流れを手放した前橋工はその後、毎回失点を重ねていった。

 ミスが出た時、ピンチの時、追い込まれた時、こう自分を鼓舞してきたという。「主将のオマエが落ちちゃダメだ」。いつも笑顔でチームを引っ張ってきた。

 淡々と取材に応じていた小林。だが、自身の失策を語り始めた時、突然声を震わせた。「3年間やってきたことが、無駄になってしまいました」。口元で笑おうとするのだが、涙が止まらなかった。

 新チーム結成直後の昨秋、腰椎(ようつい)を疲労骨折。半年間、思うような練習ができなかった。それでも笑顔で前を見続けた。

 主将として、つらいこともあったという。「でも、それ以上にいい仲間に恵まれました」

 雲の切れ間からのぞく夏空を見上げた。伝統校の主将は静かに、背負い続けてきたその重い看板を下ろした。(抜井規泰)

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