2030年に島根県で開催される国民スポーツ大会(国スポ、国体から改称)について、県は計画していた自転車競技場の新設を白紙に戻した。地元や競技団体には困惑が広がっており、建設に向けた再検討を求める署名活動まで始まった。県の突然の方針転換の背景にあるものとは――。
国スポは、日本スポーツ協会などの共催で、都道府県の持ち回りで毎年開催される国内最大のスポーツ大会だ。1946年に第1回が開催され、既に全国を一巡して現在は2巡目に入っている。
島根県では82年に「くにびき国体」が開催され、それに合わせて同県大田市に自転車競技場が整備された。現在も高校生らが練習で利用しているが、ひび割れたコースの間から雑草が生えるなど、老朽化は深刻だ。仮に次の国スポで使用する場合、補修に加えて、選手が移動する地下通路を設けるなど大規模な工事が必要になる。
そこで県は新設に向けて検討を進め、2022年3月に新競技場を同県出雲市上塩冶町に建設する方針を決めた。県によると、見積もりで建設費は約25億円。25年度の着工を目指し、今年度の当初予算には建物を設計するための予算を計上した。新競技場の建設に向けて、関係者の期待は高まっていた。
しかし、この計画には暗雲が立ちこめ始める。県が5月下旬、県自転車競技連盟に対して、現状では建設が困難だと伝えたのだ。
「国スポでは、日ごろの練習で必要な設備よりはるかに高い水準を求められている」。島根県の丸山達也知事は6月初旬の記者会見で、新設計画を白紙に戻した要因について言及し、「(建設するかどうかは)決まった状況ではない」と強調した。
県によると、近年の人件費や資材の高騰で、想定していた建設費がさらに増加することが判明。国スポでは開催費用の大半を開催地が出すことになっており、競技場の建設費も大部分は県の負担になる。県の担当者は「一般に国スポは多額の補助金が出ていると思われがちだが、地元負担で成り立っている。島根県のような小さな自治体では負担が重すぎる」と説明する。
関係者困惑、新設求め署名活動
「急に計画を止められて、いったい今後どうなってしまうのか」。県自転車競技連盟の寺本道彦事務局長は困惑を隠せない。「全国レベルの建物があれば、大きな大会を誘致できる。経済効果のある施設であることを理解してほしい」と訴える。6月上旬から新設を求める署名活動を始め、県内外から署名が集まっているという。
国スポを巡っては、全国の自治体から開催方法を見直すべきだとの声が強まっている。6月には、島根県に加えて同じように2巡目の開催を控える鳥取県や群馬県などが日本スポーツ協会に対して、施設基準の弾力的な運用などを求める要望書を提出。日本スポーツ協会は有識者会議を設置し、大会の在り方について議論する。
島根県によると、2030年国スポの事業費は施設整備費など約265億円で、その大半が県の負担になる見通し。自転車競技は、県外の施設を利用することも含め検討される可能性がある。丸山知事は記者会見で「(国スポは)中央の競技団体の決めごとに開催都道府県が従わざるをえない従属関係だ。負担の重さに目を向けた運営に見直してもらいたい」と訴えた。【松原隼斗】
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