(7日、第106回全国高校野球選手権愛知大会2回戦 栄徳11―1稲沢・稲沢緑風館=5回コールド)

 試合が始まってまだ数分。一回1死二塁、打席に立った稲沢・稲沢緑風館連合チームの主将、水野善季選手(3年)は甘く入った球に気持ちをぶつけた。「抜けてくれ、どうにか伸びてくれ」。左中間に転がる間、三塁まで駆け抜け、先制の一打に。ユニホームの違う「後輩」につなぎたかった。

 1914年に開校した稲沢は少子化などを理由に、稲沢東(いずれも稲沢市)、尾西(一宮市)と共に稲沢緑風館に統合され、昨春、新入生の受け入れを停止。3年生が卒業する今年度で完全に統合され、稲沢の名が消える。

 3年生4人の胸に描かれた「INAKO」のユニホームもこの夏で最後。下級生は左胸に「R」のつく稲沢緑風館のユニホームで臨んだ。

 ただ水野選手に「連合」の感覚はない。同じ敷地の別校舎でそれぞれ授業を受けるが、練習は同じグラウンド。後輩たちは「一緒にやってきた仲間」。チームは仲の良さが特徴だ。

 一塁スタンドでは昨年度、稲沢を卒業した先輩らが選手に声をかけ続けた。庭師の大崎晃平さん(18)は「(稲沢高校の名前が消えても)自分の母校であることに変わりはない」。

 10点差をつけられ、試合は5回コールドで敗れた。副主将の久保龍生選手(2年)は一回に三振に倒れ、三塁走者の水野選手をかえせなかったのが心残りだ。今後は打撃練習を積みつつ、「コミュニケーションとって声を出して楽しく野球をしたい」。稲高の絆は後輩たちに託された。(渡辺杏果)

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