パリでは1947~2023年の間に熱波が50回も発生しており、今年のパリ・オリンピックでも暑さで選手らの健康に深刻な影響が生じることが懸念されている=パリで2024年7月1日、ロイター

 命を落としかねないリスクのある環境で競技をしている――。パリ・オリンピック開幕を前に、英米豪の研究機関やスポーツ関連団体などが、地球温暖化による猛暑下での競技実施に警鐘を鳴らす報告書「火の五輪」を公表した。公表に合わせて元陸上選手の為末大さん(46)らが3日、オンラインで記者会見し、スポーツ界として気候変動問題に向き合う必要性を訴えた。

76年間で熱波50回

 報告書によると、フランスの年平均気温は前回パリで五輪が開催された1924年以来、1・9度上昇。パリでは熱波が1947~2023年の間に50回発生しており、近年は気候変動の影響でその頻度と激しさが拡大している。

 報告書は、フランスでは03年の熱波で約1万4000人以上が死亡したとされ、同じ季節に五輪が開催されることへの懸念を示した。そのうえで、暑さを避けられるような大会日程の設定、選手やボランティアら大会に関わる人を守る対策を提案。選手が気候変動についてファンを啓発すること、気候変動の原因となっている化石燃料企業とのスポンサー関係を見直すことなども求めている。

熱中症の後遺症が奪った選手の夢

 会見には、報告書に経験談を寄せた競歩の鈴木雄介選手(36)も出席した。

 鈴木選手は19年9月、猛暑のドーハで開催された世界選手権の男子50キロ競歩で優勝し、東京五輪の代表に内定したが、その後体調が回復せず、五輪出場を辞退した。

 ドーハでは深夜に競技が行われたが、気温は30度を超えていたという。「30~40キロあたりで寒気を感じた。ゴールはできたけれど、意識はボワーッとした感じだった」。鈴木選手は報告書で、長引く熱中症の後遺症が五輪出場の夢を阻み、大きな打撃を受けたと告白している。

東京五輪出場の選手も暑さ訴え

東京オリンピックのマラソンは厳しい暑さを避けるため、開催地を札幌に移転して開催された=札幌市中央区で2021年8月7日、貝塚太一撮影

 報告書には、東京五輪に出場したアスリートの経験談も多数盛り込まれた。テニス男子ダブルスで銅メダルを獲得したマーカス・ダニエル選手は「脱水症状、頭痛、倦怠(けんたい)感が常にあった。文字通り卵が焼けるような状況でプレーしなければならないのはスポーツ本来の姿でない」と訴えた。

 為末さんは会見で、環境の変化を肌身に感じているアスリートが危険をいち早く知らせる「坑道のカナリア」のような役割を果たせると指摘。報告書が化石燃料企業とのスポンサー関係を見直すことを求めていることについても「大きな話だが(アスリートが)スポーツだけをすることから、あるべき社会を作っていくことにかじを切るべきだと思う」と語った。【大野友嘉子】

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