陸上男子100メートル準決勝、2着で決勝進出を決めた桐生祥秀=新潟・デンカビッグスワンスタジアムで2024年6月29日、和田大典撮影

陸上日本選手権(29日、新潟・デンカビッグスワンスタジアム)

男子100メートル準決勝 桐生祥秀(日本生命、10秒20)=決勝進出

 「何もない状態」で走れるすがすがしさが予選、準決勝を走り終えた笑顔に詰まっていた。

 サニブラウン・ハキーム(東レ)の参加標準記録突破で、パリ・オリンピック代表枠が残り「2」になった男子100メートル。元日本記録保持者の28歳、桐生祥秀が再び存在感を示している。

 この日2本目となった準決勝。スタートからレースを引っ張ったが、中盤以降が思ったほど伸びずに2位でフィニッシュした。「あまり良くなかった」と結果への評価は辛めだが、10秒3台で低迷した直近の不振から脱した実感もある。

 心身の不調や左脚の故障などに苦しんだ昨季までと比べ、今大会は「脚も痛くないし、体調もいい」と充実している。

 不安な箇所が「何もない」状態で五輪選考会に臨めるありがたみをより一層感じる理由もあった。

 日本記録(9秒95)保持者の山縣亮太(セイコー)や、多田修平(住友電工)といった東京五輪メンバーが故障を理由に今大会を欠場し、パリ五輪への挑戦を断念した。盟友たちの決断に、「勝負のスタートに立てない悔しさは、レースに出て(五輪出場権を)取れなかった悔しさより大きいと思う」。

 男子100メートル代表を巡る争いは、五輪2大会ぶりのメダル獲得を目指す400メートルリレーのメンバーを占いもする。サニブラウンに加え、世界選手権2大会連続出場中の20歳・柳田大輝(東洋大)も、五輪出場条件の一つである世界ランキング圏内で安定した成績を残している。現状では間違いなく、この2人がリレーの主力だ。

 一方で、東京五輪以降、日本は3走を固定できていない。メダルを獲得している2016年リオデジャネイロ五輪(銀)、19年世界選手権(銅)と、巧みなコーナーワークが必要とされるこの走順をこなしたのは桐生だ。一日の長がある桐生に、おのずと期待が寄せられているのも事実だ。

 陣容が一新した感のある国内短距離界だが、日本陸連関係者は「桐生にはリレーメンバーにいてもらいたい。彼がいると、(途中棄権に終わった)東京五輪からのリスタートだけでなく、(技術の)継承にもなる」と語る。

 桐生の場合、今大会で代表入りを決めるには参加標準記録(10秒00)を突破しての優勝が条件だ。標準記録を突破せずとも好タイムを残して世界ランキングを上げる手もあるが、「何も考えずに一本ガツンといく」。30日の決勝は無心で、3大会連続の五輪への道を切り開く。【岩壁峻】

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