5月の関東学生剣道選手権で初優勝を果たした筑波大の平尾尚武選手=東京都千代田区の日本武道館で2024年5月12日、高橋将平撮影

 中学から日本一の環境を追い求めてきた学生剣士が、充実期を迎えた。30日に東京・武蔵野の森総合スポーツプラザで開催される第72回全日本学生剣道選手権大会で、初の関東王者として臨む筑波大の平尾尚武選手(4年)。飛躍を遂げた背景には、主将としての自覚や「気づき」があった。

 5月の関東学生選手権で優勝候補ら実力者を破ってタイトルを手にした平尾選手は、終始淡々とした様子で大会を振り返った。

 「決勝もあまり覚えていないんですよね。自分を含めて誰も優勝するとは思っていなかったので、『本当に優勝したんだ』という感じでした。だからインカレ(全日本学生選手権)もそんなにプレッシャーにも思わない。大会が近づいてきて緊張してくるのかもしれないですね」

 慎重に言葉を選びながら落ち着いて受け答えする姿は、自らを客観的に分析しているようにも映った。

 関東では二つ勝って全日本への出場を決めると、次の4回戦で三宅康太郎選手(明大4年)と対戦した際に思わず欲が出た。

関東学生剣道選手権を初めて制し、引き締まった表情で賞状を受け取る筑波大の平尾尚武選手=東京都千代田区の日本武道館で2024年5月12日、高橋将平撮影

 「インカレ出場を決めるまでは先を全然考えていなかったけど、三宅選手と対戦した時にめちゃくちゃ勝ちたい気持ちが出ました。ここで勝てればもしかしたら上までいけるかもしれないとちょっと思いました」。大会直前までは不調だったというが、三宅選手に勝利して勢いづき、一気に頂点へと駆け上がった。

熊本、茨城…求めた「日本一の環境」

 子どもの頃から剣道の非凡な才能があった。名古屋市出身で、小学生の時から中部地区大会で優勝したり、全国大会の団体戦で3位に入ったりするような実績を残し、「日本一の環境で剣道がしたかった」と自ら強豪校を探した。

 小学6年の時に熊本・九州学院中の練習会に参加し、「スタートから常に実戦につながるような練習に感動しました」。中高一貫校の九州学院に剣道留学し、6年間を過ごした。

 九州学院高では2年の時に全国高校総体(インターハイ)団体戦で優勝。大学進学にあたり、関東の強豪校から誘いを受けたものの、筑波大を受験した。「日本でトップクラスの厳しい環境に身を置いて剣道をすれば、もっと強くなると思いました」と振り返る。

 入学時から周囲の期待は大きかったといい、「高校の時の実績で主将の候補が決まります。この代では自分が一番結果が出ていたので、3年後の主将は決定みたいな流れでした」。そんな既定路線の主将就任ではあったが、立場が人を変えた。

「剣道でも成長」周囲も評価

 筑波大で男子を指導する鍋山隆弘監督は「主将になって責任感が出て話し方や受け答えが良くなり、ずいぶん成長しました」とみている。7月の世界選手権日本代表で、平尾選手とともに練習してきた筑波大剣道部OBの松崎賢士郎選手(筑波大大学院)も「主将になってから人間的に成長し、それが剣道にもつながっています。相手との駆け引きでも『やるな』と感じるようになりました」と評価している。

 平尾選手は「主将になっての変化は、自分ではよく分かりませんが、今までは自分のことばかりやっていたのが、部全体のことを見て、考え、伝えていく立場になりました。それが剣道にも影響を与えたのかもしれません」と受け止めた。

 持ち味は堅い守り。本人は「万人受けしない」と控えめだが、「80点ぐらいですべての技をまとめられるタイプ。インカレでも自分のペースを崩さずにやるだけです」。昨年の全日本は1回戦で敗退したが、今年は心身ともに充実。まずは1回戦を突破して勢いに乗れば、違う景色が見えるかもしれない。【浅妻博之】

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