関東女子学生剣道選手権を初めて制した筑波大の山本真生選手=東京都調布市の武蔵野の森総合スポーツプラザで2024年5月18日、高橋将平撮影

 学生剣道のトップ選手がひしめく筑波大で陰に隠れた存在だった4年生が、悲願の「インカレ切符」を手にした。29日に東京・武蔵野の森総合スポーツプラザで開催される第58回全日本女子学生剣道選手権大会に初めて出場する筑波大の山本真生(まさき)選手(4年)。高校時代の同級生でもある日本代表を破って関東女王の座をつかんだ勝負の技は、意外なものだった。

苦手な技であえて勝負

 5月の関東女子学生選手権決勝の相手は、法政大の水川晴奈選手(4年)。岡山・西大寺高の同級生で、2年前の全日本女子学生選手権では史上5人目の2連覇を達成した実力者だ。

 互いに手の内を知り尽くし、4分の試合時間では決着がつかなかった。迎えた延長戦。山本選手は、相手が間合いを詰めてきたところでうまくタイミングをずらして懐に飛び込み、メンで勝負を決めた。

 ただ、メンは「得意技ではなかった」という。本来は相手が打ってきたところを竹刀で受け、すぐに手首で返して打つ「返し技」が持ち味。そこを狙われていると察知し、あえて苦手な技で意表を突いた。

 西大寺高剣道部では水川選手が主将で、山本選手は副主将。県内では上位を争うライバル関係だったが、大学進学後は明暗を分けた。水川選手は1年生にして大学日本一となり、脚光を浴びた。今年は7月の世界選手権日本代表にも選ばれた学生女子剣道界のホープである。

 対照的に山本選手は全国大会への出場機会もなく、苦しみ続けた。

 「稽古(けいこ)をどれだけ頑張っても、(全国大会に出場する)選手にもなれなかった。2年生の時に関東(女子学生選手権の)個人は出ているけど、試合に出ても結果が出ないから団体のメンバーにも選ばれなかった」

 殻を破るきっかけをつかんだのは、筑波大の春合宿だった。部内の試合で自分なりの形を見いだし、「ちょっとずつ頑張りが(結果として)見えてきて自信につながりました」。得意の返し技を磨きつつ、返し技を決めるための直前の動きも重視した。

 「決めきる技だけでなくジャブみたいに出せるようなものを練習したり、強くない脚力を補うために、メンでも激しく飛び込まないで打つ練習も入れたりしました」

 同じ技でも場面に応じて強弱をつけるなど、引き出しを増やす地道な努力が水川選手との決勝で結実した。

岡山・西大寺高の同級生対決となった関東女子学生剣道選手権決勝。試合後にリラックスした表情で言葉をかわす筑波大の山本真生選手(左)と法政大の水川晴奈選手=東京都調布市の武蔵野の森総合スポーツプラザで2024年5月18日、高橋将平撮影

最初で最後の全日本「決勝で水川と」

 岡山県出身。二つ上の兄の影響で剣道を始め、中学時代は中国地区の大会の個人戦で優勝した。高校2年の全国高校総体(インターハイ)では個人で3位に入った。しかし、筑波大ではハイレベルなチームメートの中で埋もれてしまった。「(4年生となり)最後だからここで残さないと何もなくなる」。覚悟を決めて竹刀を握り、全国への道を切り開いた。

 筑波大剣道部で女子を指導する有田祐二監督は、感慨深げに振り返る。

 「大学に入って山本は水川選手に1回も勝てず、3年間がたった。なかなか日の目を見ずにつらかったと思う。関東の決勝で水川選手に勝たせてもらって本当に良かった。試合中は泣きそうでしたよ」

 一方、敗れた水川選手も黙ってはいない。「(山本選手の)悔しい思いが出たのかなと思います」と結果を受け止めつつ、「この悔しさを糧にインカレで戦いたいです。大学生活ラスト(の全日本)を優勝で終わりたい」と雪辱を期す。

 4年間の集大成となる最初で最後の全日本について、山本選手はどう受け止めているのか。「肩書は『関東女王』だけどチャレンジャーなので。あんまり気負わず、伸び伸びと。決勝でまた水川とやりたいですね」。時折見せる屈託のない笑顔は、重圧を感じさせない。【浅妻博之】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。