東京11区では、裏金事件で自民の公認を得られず、無所属で出馬した元文部科学相の下村博文氏(70)が、立憲元職の阿久津幸彦氏(68)に敗れ、落選が確実となった。1996年以来、9期連続当選を果たしてきたが、「政治とカネ」の問題への逆風に耐えられなかった。
「本当かよ……」「ああー早いねえ」。投票終了直後の午後8時過ぎ、テレビで阿久津氏の「当選確実」が流れると、板橋区の事務所に集まった約20人の支援者からはうめくような声が漏れた。
下村氏は裏金事件で旧安倍派の元事務総長として党員資格停止1年の処分を受け、非公認となり比例代表への重複立候補も認められなかった。
事務所に到着した下村氏は「本当に申し訳ございません」と目を潤ませながら頭を下げた。敗因については、「まさに『政治とカネ』の問題。私の不徳の致すところで、信頼を取り戻すべく朝から晩まで訴えてきたが力及ばずだった」と硬い表情で振り返った。
前回選では他の自民候補の応援で全国各地を回ったが、今回は自民都議や区議らと連日区内を遊説。支援者宅を1軒ずつ回る「おわび行脚」も実行し、衆院解散までに8000軒以上足を運んだ。
だが、選挙戦の終盤、共産党機関紙「しんぶん赤旗」の報道で、非公認候補が代表を務める党支部に対し、党本部が2000万円を支給していたことが明らかになり、野党から「また裏金か」などと一斉に批判を受けた。
下村氏は、自身の党支部は既に解散しており、2000万円は受け取っていないとしたうえで、「いわゆる『裏金議員』ということで私も同じように(受け取ったと)見られ、ものすごくマイナスになった」と不満をにじませた。
自民は選挙前から大幅に議席を失うこととなった。下村氏は「あらゆる部分で制度疲労が起きているということ。抜本的な自民党の出直しと信頼回復に向けて、私自身もゼロから始めていきたい」と述べた。終始表情をこわばらせたまま、支援者と握手を交わし、10分あまりで事務所を後にした。
猛烈な逆風を生む要因となった裏金事件を巡っては、党本部の方針が選挙に影響したと自民関係者からは恨み節が漏れる。
自民は公示直前の9日、裏金事件に関係した12人を公認しないことを決定した。公認を得られずに無所属で立候補した陣営の関係者は「党員からも『今回は投票できない』とはっきり言われる。そういう場面に毎日出くわす。これまでの選挙とは明らかに違う」と語った。
石破茂首相は、非公認の候補が勝ち上がれば追加公認する可能性を示唆していた。これについて、別の非公認候補の陣営関係者は「党の処分は甘んじて受け入れるが、トカゲのしっぽ切りのように切られた後に『勝ち残ったら、戻してあげます』なんてバカにしている」と憤りをあらわにする。
ある自民関係者は「非公認でも各地を奔走して相手の背中が見えてきた候補もいたのに、党本部に後ろから撃たれた。『自民党は結局、そういう体質なのか』と言われれば、公認候補への影響も大きい」と嘆いた。【朝比奈由佳、春増翔太、野倉恵、山下俊輔】
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