衆議院の解散後、SNS(ネット交流サービス)では「白票」に関する投稿があふれている。白票は有権者が投票用紙に候補者の名前などを書かずに真っ白のまま投じる票で「無効票」として扱われるが、近年の国政選挙でたびたび話題になっている。この投票行動に意味はあるのか。専門家は「白票でもいい。まずは投票を」と呼びかける。
SNSでは賛否の声
「投票したい人がいないときは、白票を」。衆議院が解散された9日以降、X(ツイッター)では白票に関する投稿が相次ぐ。白票を促すものだけでなく、「白票ではなく、誰かマシだと思う方の候補を選択して投票すべきだ」などの反対意見もみられるなど、賛否の声が入り交じる。
総務省によると、白票は「無効投票」を規定する公職選挙法の条文に明記されていないが、無効票として取り扱っている。投票に行かずに「棄権」することとは異なり、投票率には反映される。
2021年の前回衆院選では、白票や候補者以外の氏名を記載するなどした無効投票率が小選挙区2・45%、比例代表2・42%だった。近年の国政選挙での無効投票率はおおむね2~3%で推移している。
候補者の「不倫」で白票倍増?
過去の地方選挙では、通常より白票が多く投じられたケースもある。
23年4月に投開票された神奈川県知事選では白票を含む無効票が、前回選挙の2倍以上の6・91%に達した。選挙期間中、現職知事の不倫問題が一部で報じられたことが影響したとの見方がある。有力な対抗馬がいない中、「意中の候補者がいない」という有権者の意思表示の可能性もありそうだ。
ただ、実態としては投票を棄権することと変わらないため、候補者の当落を左右する効力は生じない。選挙制度に詳しい、神戸大大学院の品田裕教授(政治学)は白票が政治に与える影響について「実効性のある決定には何もつながらない。政治家に突きつける刃(やいば)としては決して強くない」と指摘する。
では、仮に大量の白票が投票されれば、政治を動かす可能性があるのか。
海外に目を向ければ、21年に香港政府が、白票を扇動する行為に禁錮刑を科すとの法整備を進めた。中国寄りの香港政府に対し、民主派の間で、集団で棄権や白票を投じることが抵抗の意思を示す手段になるとの声が上がっていたため、香港政府がこうした動きを封じ込めた形だ。為政者が白票によって示される民意を恐れた措置といえる。
「結果的に白票でもいい、投票することが重要」
一党独裁ではなく、曲がりなりにも言論の自由が保障されている日本で、そういった意思表示の機会はあまりないのかもしれない。とはいえ、若者が多く利用するツールのSNSで白票を巡る投稿が増えたことに意義を見いだす声もある。
これまでも若者の選挙への関心の低さは指摘されている。前回衆院選の投票率は55・93%だった一方、20代の若い有権者の投票率は36・50%だった。年々、SNS上で白票に関する賛否の意見が多く見られるようになったことを、品田教授は「長期的にみれば、SNSで議論した経験が若者の投票行動にプラスになるかもしれない」と分析する。
その上で、白票の是非については「結果的に白票となってもいいので、投票に行ってみるのが重要。ただ、限られた選択肢の中から選ぶのが一番だ」と話す。どうしても投票先を決められなくても、選挙権を行使することで何らかのメッセージを発せられるかもしれないし、考え抜いた末に白票を投じた経験が次の選挙で生きる可能性だってある。棄権することよりはよほど意味はあるということだろう。【岡村崇】
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