大石賢吾・長崎県知事=長崎市尾上町で2024年7月17日午前11時20分、松本美緒撮影

 長崎県の大石賢吾知事(42)の後援会が2023年以降、年間1000万円以上の会費収入増を目標に掲げ、県建設業協会(長崎市)に後援会員を集めるよう繰り返し求めていたことが関係者への取材で判明した。県は23年、協会の陳情を受けて公共工事の落札価格の下限を引き上げていた。政治資金規正法には、業界団体が政治家の資金集めに協力することを禁じる規定はないが、専門家は「知事側が陳情を実現した成功報酬を依頼したように見える。癒着を疑われるような行為は慎むべきだ」と批判する。

 県建設業協会は県内の建設関連会社計約360社が加盟(24年5月時点)。県発注の公共工事を受注している加盟社も複数ある。ただ、近年は業界の人手不足が深刻化。協会は解決策として給与の底上げを目指し、そのための財源確保を課題としていた。

 協会は23年2月、大石知事に対し、県発注工事を落札する際の最低制限(下限)価格を引き上げるよう陳情した。最低制限価格はこれより低い額で入札すると失格になる額で、工事の質を保てる最低限の価格。引き上げが実現すれば受注額は年間約6億円増となり、協会は給与底上げの財源になると考えていた。陳情に基づく県の提案は県議会で可決され、県は23年4月、陳情通りに最低制限価格を引き上げた。

長崎県知事が県建設業協会に後援会員集めを依頼した構図

 一方、大石知事は、陳情実現後に資金管理団体「大石賢吾後援会」(長崎市)の後援会費(年間)を変更。それまでは一律3000円だったが、6万円と12万円の高額会員枠を新たに設け、建設業界だけで後援会員100人を集めるとの目標を立てていたことが関係者への取材で明らかになった。大石知事は県建設業協会に協力を依頼するため、協会長と面会するよう当時の後援会事務局長に指示。指示は無料通信アプリ「LINE(ライン)」のグループトーク「大石賢吾事務所」などでやりとりされており、毎日新聞はこのトーク履歴を独自に入手した。

 事務局長は23年10月17日、協会長と面談。「後援会費と寄付金で年間計1000万円」を集めるため、加盟社の社長らに働き掛けてほしいと依頼したという。

 ただ、依頼後も会員集めが進まず、大石知事は再度の要請が必要だと判断。最低制限価格の引き上げに賛成した県議も同席させた上で自ら協会長と会食することを計画した。会食は24年5月9日に催され、協会長は再度の依頼に「努力はするが、約束はできない」と答えたという。

 協会長は毎日新聞の取材に依頼を受けて協力しようとしたことを認めたが、最低制限価格引き上げのお礼の趣旨ではないと否定。後援会員を集めた実績はまだないとし「簡単に集まるわけがない。協会内で依頼があったことを一部伝えたが、変なことに巻き込まれたくないので、まだ動くなと言っていた」と話した。

毎日新聞が入手したLINEのトーク履歴の一部。大石賢吾・長崎県知事は資金集めの方法を巡り、関係者と協議を重ねていた=福岡市で2024年8月21日、金澤稔撮影(画像の一部を加工しています)

 一方、大石知事は毎日新聞の質問状に対し「法令にのっとり、適正に活動を行っております」と回答した。

 政治資金規正法は癒着を防ぐ目的で政治家個人への企業・団体献金を禁じている。ただ、政治家が企業や団体に働き掛け、社員らが個人的に寄付したり、資金集めに協力したりすることに歯止めをかける規定はない。一方、公務員が職務に関して賄賂を受け取ったり、要求したりした場合は単純収賄罪に問われる。

 甲南大の園田寿名誉教授(刑法学)は「職務権限のある知事側が陳情の実現後に依頼した上に、陳情実現に尽力した県議まで同席させており、職務と依頼の関連性が疑われるケースだ。強力な権限を有する知事が、利害関係者に多額の資金集めを依頼することはあってはならない」と指摘する。【志村一也、松本美緒】

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