経済官庁の30歳代職員は10年前を思い出す。キャリア官僚と呼ばれる国家公務員総合職と新人から高給をもらえる外資系運用会社で大学卒業後の進路を悩んでいた。

「官僚には他の仕事にないやりがいがある」と迷いを振り切った。最近、同社に勤める友人が都心で高級マンションを買ったことをSNSに投稿したのを見つけた。「後悔がないかと問われれば、答えは難しい」と漏らす。

人事院は2024年度の給与改定で国家公務員一般職の月給を平均2.76%(1万1183円)、ボーナスを0.1カ月分それぞれ引き上げるよう内閣と国会に勧告した。月給増が2%を超えるのは1992年度以来となる。

総合職大卒の初任給について過去最大の増加幅となる2万9300円の増額を促した。大企業の背中が見える23万円に上がる。基本給にあたる「俸給」も30代後半までの若手に重点を置いた引き上げを勧告した。平均の年間給与は691万6000円となる。

若年層が組織の将来を担うのは官も民も変わらない。人事院が若手に焦点を当てて給与を増やすのは民間との人材獲得の競争に取り残されないためだ。

人事院が総合職の新規採用者を対象に23年に実施したアンケートは給与水準を見直す重要性を如実に示す。仕事の魅力を高め、優秀な人材を獲得するのに必要な取り組みとして8割が「給与水準の引き上げ」を挙げ、最も多かった。

民間との格差は残る。労務行政研究所の調査ではキャリア官僚が併願する会社が多い東証プライム上場企業の24年度の平均初任給は23万9078円。平均年収も東証プライム上場企業は735万7000円(帝国データバンク23年度まとめ)で見劣りする。

格差はキャリアのゴールとも言える幹部年収に顕著に表れる。24年度のモデル給与では、省庁の事務方トップである事務次官の年収はおよそ2385万円となった。労務行政研究所の23年の調査では、大・中小企業の社長の平均年収は5586万円だ。

岸田文雄首相は8日、首相官邸で人事院の川本裕子総裁から勧告を受け取り「民間企業で広がっている賃上げの状況を反映したものだと受けとめている」と話した。政権が主導する賃上げ政策が民から官に波及しているとの自信だ。

連合によると、24年の民間の平均賃上げ率は前年に比べて1.52ポイント高い5.1%だった。1991年以来33年ぶりに5%を上回った。

国家公務員の給与の財源は税金だ。厳しい財政状況で民間並みの増額には限界がある。財務省などの試算では、勧告通りに国家公務員の給与を引き上げると新たに3820億円ほどの予算を確保する必要がある。

経済官庁の局長級幹部は「公務員の仕事は給与も含めて公共のためにあるべきだ」と指摘する。公務員を動かすのは国益を背負う使命感にある。限られた財源の中でやりがいと待遇の再構築が求められている。

キャリア官僚のなり手不足が止まらない。「ブラック霞が関」と呼ばれる給与体系や働き方をどう改善すべきか。24年度の人事院勧告をもとに施策の実効性を探る。

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