マイナンバーカードを利用した「マイナ保険証」への移行に伴い、現行の健康保険証が今年12月に原則廃止される。政府が進めるデジタル化の一環で利便性向上などが期待されるものの、情報漏えいへの不安などから反対する声も大きい。有権者の本音は期待か、不安か。しかし、7月20、21日に実施した毎日新聞の全国世論調査の自由記述から探ると、意外にもマイナ保険証そのものよりも「政府の取り組み方」への批判が目立った。
調査は、携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)機能を使う方式と、固定電話で自動音声の質問に答えてもらう方式を組み合わせて実施。携帯電話で回答した507人を対象に現行の健康保険証の廃止について自由に書いてもらうと、401人が意見を記入した。自由記述の意見をみると、半数以上が反対や懸念を示す意見だったが、賛成の立場の意見も一定数あり、反対と賛成が入り交じるものだった。
用途拡大に期待
現行の健康保険証は12月2日から新規発行が停止され、原則廃止となる。ただ、廃止後も最長で1年間は発行済みの健康保険証は使えるほか、同日以降もマイナ保険証に切り替えない人に対しては、健康保険証の代わりとなる資格確認書が発行される。資格確認書の有効期限は最長5年。
賛成の立場の意見からは、保険証だけでなく、より多くの機能をマイナンバーカードに持たせることへの期待が伝わってくる。「運転免許証もマイナカードと統合して、総合的な身分証として使いたい」(男性40代)、「できれば、給付金や確定申告、年金手続きなど一元管理ができるとよい」(50代女性)などの意見が並ぶ。また「紙の保険証の方が不正利用などのリスクが高い」(40代男性)、「顔写真すらない紙の保険証が本人確認書類になっていたことが異常」(30代男性)など「セキュリティー向上」の側面を強調するものもあった。
情報漏えいリスク
一方、反対や懸念の理由で多かったのは「情報漏えい」のリスクだ。「なんでも一つにまとめればいいというものではない。個人情報が漏えいした場合、リスクが大きくなる」(70代男性)、「個人情報の漏えいを防止するにはリスク分散が基本。個人情報のマイナンバーカードを通じた一括集中管理には反対だ」(50代男性)などの声が相次いだ。
また、「(パスワードなどを巡り)高齢者や障害者のことがほとんど考えられていない」(40代男性)など「デジタルデバイド(情報格差)」の問題を指摘する声もある。80歳以上女性は「現行の紙の保険証は残すべきだ。個人の自由でマイナ保険証、紙の保険証を選べるようにしたらいい」と訴えた。
準備不足
マイナ保険証の制度自体には賛同しつつ、現行保険証の廃止は「時期尚早だ」との立場の人も多い。50代女性は「廃止自体には異論はないが、説明不足で納得感がない」と苦言を呈し、40代男性は「信頼のおけるシステムが構築されるまで現行の紙の保険証も残すべきだ」と書き込んだ。周知徹底や医療機関の対応などのため「あと3年は準備期間がいるのではないか」(30代女性)と廃止時期の延長を提案するものもあった。厚生労働省によると、マイナ保険証の利用率は6月時点で9・9%と1割に満たない。
任意のはずなのに
ただ、最も目立ったのは、マイナ保険証そのものではなく、政府の進め方への批判だ。
「(マイナンバーカード取得は)任意だと言いながら健康保険証を廃止することには政策の一貫性が全くない」(40代男性)「強制ではないはずなのに、強制の方向へ進んでいることが納得できない」(50代男性)「問題点が多く解決していないまま、強引に押し切ろうとしている点に憤りを感じる」(60代女性)「多様性を認める社会をうたう一方でマイナ保険証への移行を強制すべきではない」(60代男性)――。情報漏えいの懸念などが残る中、生活を支える「健康保険」を利用し、任意であるはずのマイナンバーカードを「実質強制」する政府の姿勢に反発を覚える人は多いようだ。
60代男性は「マイナンバーカードは任意だと言いながらこういうことをする。政府に不信感しかない」と嘆いた。行政のデジタル化への期待は大きい。だが、現行保険証の廃止は、移行措置があるとはいえ、国民生活に影響を及ぼすため丁寧な説明や対応が必要だ。マイナ保険証の普及の最大の壁は、政府への「不信感」かもしれない。【野原大輔、大隈慎吾】
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