宮城県大郷町が実現を目指すサッカーの関連事業と農業振興と連動させる「スマートスポーツパーク(SSP)構想」を巡り、7月26日、6月に否決された関連予算案を審議する臨時議会が開かれた。賛否の意見が飛び交う中、採決の結果は2度目の否決。大郷町の田中学町長は「町民の多くは賛成している」とし、住民投票に踏み切る意向を明らかにした。

サッカー×農業 SSP構想

大郷町は宮城県のほぼ中心部に位置し、農業が盛んな人口7500人ほどの町だ。

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2024年4月に民間の有識者グループ「人口戦略会議」が公表した消滅可能性自治体にも名を連ね、人口減少と少子高齢化が大きな課題となっている。
こうした中、町は2024年5月、全国でスポーツ事業を展開する京都市の「スポーツX」社と協定を結び、町内の19ヘクタールの土地にサッカーグラウンド12面と1200人以上が利用できる宿泊施設2棟などを整備し、選手の育成ほか大会や合宿を開催していくと発表した。

隣接する土地には農地も整備し「アスリート兼農家」を育てるほか、スマート農業に取り組む法人などを誘致する方針で、この国内最大級のスポーツパーク構想に、町は大きな経済効果と交流人口の拡大を期待した。

スポーツパーク建設予定地

急転直下 議会が関連予算認めず

しかし、この事業に待ったをかけたのが大郷町議会だ。
6月7日に開かれた定例会で、議会側は、財政面での説明不足やスポーツX者の財政状況などが示されていないことなどを理由に、整備する土地の測量費用などの関連予算を認めず、町としては構想が前に進めることができない状況に陥った。

この構想は約2年前から議会にも大枠の説明はされていた。これまで「事業化に向けた調査・検討業務の委託費」などは可決されてきたが、関連予算が否決されたのは今回が初めて。
町の幹部によると、議会が否決に回るという話が町側に入ったのは、採決の前日。まさに寝耳に水だったという。

否決を受け 大きく揺れる町

否決後、町は揺れた。
2週間後の6月21日には整備予定地周辺の行政区長6人が構想を進めるよう求める要望書を町議会に提出。しかし、石川良彦議長は「議会には問題のない事業かどうかチェックする責任がある」とし「要望書は全議員に配布し皆さんの思いを伝えたい」と述べるに留めた。

行政区長が大郷町議会に要望

その3日後の6月24日に開かれた町議会調査特別委員会では、町は議会に対し追加で説明を重ね、町の負担が3億円程度になること、取得する用地は年間570万円で「スポーツX」社に貸し出し、20年かけて回収することなどを説明した。

さらに7月9日には2回目となる住民説明会も開催。

「大谷選手に憧れ今は野球。サッカーに町の命運をかけるのはギャンブルだ」という反対の声も挙がったものの、多くの住民が「町に足りないものを補う事業だ」「町も変わらないといけない」などと述べ、賛成する住民の姿が多くみられた。

賛否飛び交う議場 傍聴席は立ち見も

そして迎えた7月26日の臨時議会に、大郷町は6月に否決された予算案を再び提出した。

議会で構想に理解を求める田中学町長

田中町長は「不退転の決意。執行部は次の世代のために頑張らないといけないという覚悟を持っている」と議員に訴えたが、質疑の際には、議員からは「事業費を明確に」「事業者が破綻した場合はどうなるのか」「環境への影響は」など、リスクへの質問が相次ぐ。

町は「総事業費は測量・設計などをしないと示すことができない。そのための今回の予算だ」などと説明するも、質疑は反対する議員を中心に進み、休憩を挟んで1時間20分ほど続いた。

しかし、議場の空気が一変したのが討論だ。賛成する議員2人が「消滅可能性自治体からの脱却という目標を掲げ、スタートするべき」「2年以上今までなぜ反対してこなかったのか。本気で大郷町の未来を考えているのであれば対案を出していただきたい」などと述べたが、反対討論に立った議員はゼロ。反対討論は行われず、採決へと進んだのだ。

議会の判断は「2度目の否決」

採決の結果は賛成5、反対6の反対多数で2度目の否決。

賛成で起立した議員は5人だった

定員を超える傍聴人が集まっていた傍聴席からは拍手も聞こえた一方、「議会は解散だ」「反対討論してから言え」などとやじが飛ぶ。

閉会後、報道陣の取材に応じた田中町長は「反対討論は堂々とやってほしかった。これでは町民は納得しない」と悔しさを隠さず。賛成した議員の調査で8割の住民が賛成の意思を示していることにも触れ、町として初となる住民投票を行うと表明した。

閉会後 住民投票を行う考えを示した田中町長

のどかな町を二分するスマートスポーツパーク構想。実現にたどり着けるのか。それとも頓挫するのか。今後の展開に注目が集まる。

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