小池百合子東京都知事(写真:時事)

「首都の女帝」と呼ばれ、初の女性首相候補にも擬せられてきた小池百合子東京都知事が、小池氏の学歴詐称を立証するかのような元最側近やエジプト時代の同居人女性の実名「告発」によって、政治生命の危機がささやかれ、今後の展開次第では、告示まで2カ月となった都知事選(6月20日告示・7月7日投開票)の構図も一変しかねない状況となっている。

しかも「告発」の余波で、岸田文雄首相の命運がかかる「4.28トリプル補選」の中で大混戦となっている衆院東京15区での「自民不戦敗」が確定。このため、“小池ブランド”にすがって同区での“勝利”を狙っていた岸田首相と自民党執行部は、「全く想定外の事態に困惑しきり」(自民幹部)だとされる。

小池氏は疑惑を全面否定するが…

そうした中、小池氏は「告発」が月刊誌で大々的に報じられた直後の12日の定例会見で、「(今回の告発は)そもそも大前提が違う。卒業していないというが、大学が卒業を認めているし、すでに卒業証書と卒業証明書はこの場でもお伝えしてきている」と疑惑を全面否定。

そのうえで、「前回騒いだ時は2020年6月で、(再選出馬した)都知事選の直前。そもそも選挙のたびにこうした記事が出るのは残念」と強い不快感を表明した。ただ、今回の一連の騒ぎに、中央紙やテレビ各局といった大手メディアがそろって「極めて慎重な対応」なのに、インターネット上では「嘘つきは小池の始まり!」「小池は自分ファースト!」などの書き込みがあふれるなど、“小池バッシング”が際立つ。

このため、永田町関係者の間でも「4年前のように簡単に事態が収束する状況ではない」(政治ジャーナリスト)との見方が支配的。しかも、告発の「背景」を探ると、「小池氏の学歴問題を巡るドロドロした人間関係」(都庁関係者)が浮き彫りとなるなど、「まさに奇々怪々な話ばかりで、今後の岸田首相の政局運営の新たな“火種”にもなりかねない状況」(自民長老)となりつつある。

文春側、「田中角栄の金脈と人脈」の再現を狙う

今回の「告発」騒ぎは、4月10日発売の月刊誌・文藝春秋に「私は学歴詐称工作に加担してしまった」との小島敏郎氏の手記が掲載されたことが発端。同氏は元環境省のキャリア官僚で、小池氏が特別顧問を務める「都民ファーストの会」事務総長も務めるなど小池氏の最側近として知られてきた人物だ。

その小島氏が、前回知事選前に小池氏の学歴詐称を指摘した『女帝 小池百合子』(石井妙子著)への対応について、直々に小池氏から相談を受けた際のやり取りを中心に、改めて関係者に問い質すなどして事実関係を精査した結果、「学歴詐称だと確信」し、この問題での取材・報道に力を注いできた文春に、「告発」記事を寄稿したというのが経緯だ。

文春側は、今回の告発記事掲載について「半世紀前に現職首相が退陣に追い込まれるきっかけとなった『田中角栄の金脈と人脈』という特集記事と同様の狙いで、あえてこのタイミングで取り上げた」(編集幹部)としており、18日発売の週刊文春も「大々的な続報」を掲載した。

そのうえで、同誌関係者は、「小島氏の『告発』に関しては、1年以上前から綿密に内容を詰め、同氏と編集部が一体となって記事に仕立てた」と説明する。さらに、「その背景には、週刊文春の松本人志氏の性的スキャンダルでのスクープ記事が裁判沙汰になっている中、本誌(月刊・文藝春秋)は、本来の“政治ネタ”で勝負をかけたいとの思惑があった」(政治ジャーナリスト)との指摘もある。

しかも、半世紀前の田中角栄首相の「追及劇」と同様に、今回も告発記事アピールの舞台となったのが、一般には「外国人記者クラブ」と呼ばれる「日本外国特派員協会(日本に派遣されている外国報道機関の特派員を中心に運営)」というのも因縁めいている。

現在は弁護士の小島氏は、17日午後に同特派員協会で1時間半にわたり記者会見し、改めて「告発」に至った経緯や事実関係を説明したうえで、質疑応答に応じた。その中で小島氏は「学歴詐称は公職選挙法違反に問われかねない。(小池氏には)正確にお答え願いたい」と繰り返し訴えた。

そもそも小池氏は、2020年5月に出版されたノンフィクション作家・石井氏の著作『女帝 小池百合子』の中で、それまで自身が主張してきたエジプト・カイロ大学卒業の経歴への疑義を指摘されて都議会で厳しい追及を受け、同年7月5日の都知事選を前に窮地に追い込まれていた。

そうした中の同年6月9日、カイロ大学が小池氏の卒業を認める声明を唐突にフェイスブックに公表したことで疑惑は一気に沈静化。自民党を含めた都議会各会派は追及をやめ、メディアも関連報道を自粛した。ただ、その当時も、関係者の間では「カイロ大の声明文公開の経緯」を疑問視する声は少なくなかった。

小池氏側近だった元ジャーナリストのA氏の存在

17日の会見で小島氏は「カイロ大が声明を公表する案は自らが提案したものだった」として、当時、自分と同じ小池氏側近だった元ジャーナリストのA氏が「その原案を作ったことがわかった」と説明。その裏付けとしてA氏が作成した声明文の原案と、実際にフェイスブックに公表された文面を並べて提示し、両者がほぼ同じ内容であることを指摘した。

そのうえで、都知事選公示の6月20日に小池氏が立候補を届け出た際、自身の経歴に「カイロ大学卒業」と明記した場合には、「公職選挙法上の経歴詐称として刑事告発をする可能性がある」と明言するとともに、現時点では匿名にとどめているA氏の実名も含め、「裁判になればすべてを明らかにする用意がある」と語った。

これにタイミングを合わせるように、小池氏と長年の交際がある前東京都知事の舛添要一氏も17日、自らのX(旧ツイッター)に、「小池氏の学歴詐称疑惑について、私の知っていることを書く」としたうえで、「嘘から始めた政治家人生、本人のためにも、日本国のためにも、この権力欲にまみれたポピュリストはもう政界から去ったほうがよい」と喝破した。

「音無し主要メディア」の裏に“政治的謀略”も

小島氏の17日の会見には、日本の中央・地方各新聞社やテレビ各局など多くのメディアが集結、取材していたが、NHKや民放各局の17日夜以降のニュースや情報番組、翌18日の中央・地方紙朝刊などは、ほとんど踏み込んだ報道をしなかった。さらに、日本のメディアの総本山である「日本記者クラブ」(公益社団法人)も今のところ小島氏の会見などは予定していないことなどから「主要メディアの慎重対応」も際立つ。

その一方で、小池氏に“忖度”するように、岸田首相ら政府与党幹部も「そろって無視を決め込んでいる」のが実態だ。ただ、その背景については「官邸中枢や大手メディアの最高権力者も絡んだ底の知れない“政治的謀略”が垣間見え、都知事選に合わせた衆院解散論や、自民党総裁選を絡めた“権力闘争”の材料にもなりつつある」(自民長老)との指摘もあり、「表舞台と裏舞台の反応の“落差”が、『小池問題』の闇の深さを物語っている」(同)ことは間違いなさそうだ。

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