中国のSNSをのぞくと多くのAI美女が登場する(写真はREDより)

生成AIで作成された可能性がある若い女性のセクシー動画がYouTubeやインスタグラムに投稿され、アクセスを稼いでいる。

2022年末に対話型AI「ChatGPT」がリリースされたのを機に、テキストだけでなく画像や動画、曲などを容易に生成するツールが次々に現れ、リアルかAIか判別が難しいコンテンツが身の回りにもあふれるようになった。

日本より数年早く人間に似せたAI「バーチャルヒューマン」が実社会で活動するようになった中国では、生成AIの登場によって、中年男性相手に商品を売りつけ月商数百万円を稼ぎだす「AI美女ライバー」が多数出現している。

ミス東大目指すAI美女が物議かもす

「2024年のミス東大を目指す」とプロフィールに記載された女性の動画がYouTubeやインスタで多数投稿され、物議をかもしている。

雪乃なぎさと名乗り「ノーブラで散歩」など、セクシーさを強調した内容で、数十万~100万回再生された動画もある。

「ミス東大を目指す女性」のYouTubeアカウントは複数存在し、いずれもXやインスタグラムに誘導し、プロフィールにあるリンクからより過激な投稿を配信する有料アダルトコンテンツに飛ぶ仕組みとなっている。

産経新聞の取材によると、東京大学は上記の人物を「認知しておりません」と回答したそうだが、イギリスの教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」の2024年版世界大学ランキングで東大(29位)を上回る12位にランクインし、アジアトップと評価された中国の清華大学には大学公認のAI女子大生が存在し、学籍番号も与えられている。

2021年6月に同大のIT学部に入学したAI女子大生「華智氷(フア・ジービン)」は、「ミス東大AI」と違ってTシャツにGパンでリュックを背負っており、中国のエリート大学の理系学生をリアルに再現している。

華智氷(写真:清華大学公式サイトより引用)

研究チームによると、華智氷は独自開発したAIモデル「悟道2.0」で生成され、入学時点の知的レベルは6歳程度。テキストや画像、動画などから目的に合ったパターンを絶えず学習して1年後には12歳程度の賢さを備えるようになり、将来的に絵を描いたり詩を創作するようになるとした。

AIインフルエンサーやAIアナウンサーも

伊藤園がテレビCMに生成AIで作成したモデルを起用するなど、日本では2023年が「AIタレント元年」だった。

一方、華智氷の事例からもわかるように、中国ではもっと早い2021年から2022年にかけてAIインフルエンサーがSNSで活動を始め、企業によるAIタレントの起用も活発化した。

EC最大手のアリババグループなどが開発した女性AIの「AYAYI」は2021年に同社に「入社」し、中国初のAIインフルエンサーとしてルイ・ヴィトンやバーバリーなど30以上の高級ブランドと提携した。

ポルシェのブランドアンバサダーを務めるバーチャルインフルエンサーAYAYI(写真提供:アリババグループ)

2022年の北京冬季五輪では、手話で実況を届けるバーチャル手話アナウンサーが登場した。

ChatGPT登場前から中国でバーチャルヒューマンが存在感を高めていた背景には、ライブ配信しながら商品を売るライブコマースが隆盛するなど、ECの進化がある。

人間のスタッフやインフルエンサーの代わりに商品説明をしたり、消費者の質問に答え、購入を促すAIへの需要を取り込み市場が拡大した。

IT企業にとって、バーチャルヒューマンの開発は技術力をアピールする場でもあった。

2023年5月にアリババのAIインフルエンサーAYAYIと口紅王子として知られるトップインフルエンサーの李佳琦氏が「AIライバーは人間に取って代わるか」というテーマで対談する動画が公開されたが、それはAIの対話能力を示すことが目的の1つだった。

だが、生成AIの登場で簡単にAIを使ったコンテンツ制作のハードルが一気に下がると、AI美女のアカウントがSNSや動画配信プラットフォームに大量に湧いて出た。

「ミス東大」のようにセクシーな美女でフォロワーを集め、広告収入や有料コンテンツへの誘導を狙うアカウントもあるが、中国ならではと言えるのは、ライブコマースで商品を売るAI美女ライバーだ。

ライブコマースのプラットフォームではセクシーな衣装をまとった美女が多数活動している。

中国メディア新浪新聞によると、プロフィール欄に「1980年代生まれのシングルマザー」と記載されたアカウントには110万のフォロワーがいる。

一方的に商品を紹介し、視聴者と交流することはなく、運営会社から「このコンテンツはAIで作られた疑いがあります」との注釈もつけられているが、ライブコマースが始まると、多くの視聴者が話しかけたりプレゼントを贈ったりする。

中年男性狙ったAI美女のビジネス

通常、人気ライバーのフォロワーは若い女性が中心だが、これらAI美女ライバーのフォロワーは40代以上の中年男性が半分以上を占めているという。

中高年のおじさんを狙うAI美女にはセクシー美女系と、「あなたのことを誰よりもわかっている」感を出す寄り添い系の2種類の戦い方がある。

後者の代表例は中国版TikTok「抖音(Douyin)」で1000万人超のフォロワーを抱えるアカウント「チョコレート、ミニレモン」で、独身男性に寄り添い、彼らの自己肯定感を高めるようなショート動画を配信している。

人間のトップライバーは情報感度が高く、消費意欲が旺盛な若い女性をターゲットに、高単価のアパレルや化粧品を販売するが、AI美女ライバーたちはおじさん向けにライターやスリッパ、カミソリなど数百円の日用品を売っている。

儲からない商売に見えるが、新浪新聞によると“彼女たち”は1つの商品に最高で50%にも達する高い販売手数料を設定し、しかも若い女性相手のアパレルに比べて返品も極めて少ないため、実はおいしいビジネスだという。

前述の「1980年代生まれのシングルマザー」を名乗るアカウントの昨年12月の販売実績は約500万~1000万円(推定)に上る。

AI美女による配信やライブコマースで楽して儲けようと考える人のために、ネットでは生成AIを用いた美女の作り方から稼ぎ方まで多数の情報商材が売られている。その内容は玉石混淆で、詐欺まがいのものも少なくない。

新技術が登場すると、すぐに悪用例が出るのも中国のお決まりで、2023年5月末には、AIによる顔交換技術を使って有名人になりすまし、中国のライブコマース・プラットフォームで商品を紹介する行為が横行していると、 国営テレビ局が注意を呼びかけた。

顔交換モデル一式は3万5000元(約70万円)で購入でき、リアルタイムで表情などを変化させることも可能だという。

AIを開発する資金力と技術力がない企業・個人向けにこうした著名人顔交換モデルが販売されている。この手法には著作権や肖像権侵害の疑いがあり、消費者にAIを使っていると告知していなければディープフェイクに該当する。

2023年8月に規制が施行された

技術の普及、悪用だけでなく規制も早かった。

中国のサイバー空間規制当局である国家インターネット情報弁公室は2023年1月、ディープフェイクを利用した偽情報の発信などを禁止する規定を施行し、AIによる合成技術を使った画像や音声、動画をサービスとして提供する場合、その旨を明示することを義務付けた。

中国版TikTok「抖音」は2023年5月、生成AI、ディープフェイクなどを使ったコンテンツ配信のルールを公表、配信者にはAIを使用していることの明記、コンプライアンスの順守などを求めた。中国版インスタグラム「小紅書(RED)」は、AI技術を使ったと推定される投稿に運営会社がラベルを加えている。

2023年8月には、主要国で初めてとなる生成AIの本格的な規制である「生成AIサービス管理弁法」が施行された。

同弁法は生成AIを手掛ける企業向けのルールを定めるもので、中国国内に向けてサービスを提供する生成AIコンテンツに、「社会主義核心価値観(中国共産党が提唱する価値観で、「富強」や「愛国」をはじめ12の言葉からなる)の反映」を求めているほか、わいせつ・ポルノ情報、虚偽情報を含む内容を禁止し、知的財産権やプライバシーの保護についても言及した。

ただ、強力な罰則がなければ、これらの規制は大して機能しないかもしれない。前述したAI美女ライバーたちも、多くは自身がAIであると認めていない。運営会社や専門家がそう推測しているだけであって、実際には運営会社のフィルタリングを潜り抜けている投稿も多い。

YouTubeも2024年3月、生成AIなどを利用して改変や合成がなされたリアルな動画について、その旨を明記するよう義務付けると発表したが、実効性には疑問が残る。冒頭で紹介した生成AIで作成された可能性のある「ミス東大」を名乗る「雪乃なぎさ」のYouTubeアカウントは3月中ごろに停止されたが、3月21日に別アカウントが開設され、これまで同様、いや、さらに過激な投稿を再開している。

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