歌手のレディー・ガガさんが公表したことでも知られる線維筋痛症は、全身に原因不明の慢性的な痛みが起こる病気だ。それに加え、下痢や便秘、頭痛やしびれ、睡眠障害や不安感、抑うつなど、身体・神経・精神のさまざまな症状をともなう。外見からは症状やつらさがわからないため、「怠けている」「ずる休みだ」などと言われ傷つく患者は多い。

 厚生労働省研究班によると、国内に約200万人の患者がいて、8割が女性と推計されている。30~50代の発症が多いが、子どもが発症するケースも全体の2.5~5%(5万~10万人)あるという。国の難病には指定されていない。

推計200万人、女性8割 「脳から生じる痛み」

 近年の研究で、線維筋痛症の痛みは、脳から生じていることがわかってきた。国際疼痛(とうつう)学会は2017年、体や神経の損傷など明らかな証拠がなくても生じる痛みの概念として、新たに「痛覚変調性疼痛」を提唱。その代表として、線維筋痛症を挙げた。脳の中で物事を認知したり、感情を調整したりする神経回路に変化があり、あらゆる刺激に過敏な状態になっている、と考えられている。

 直接被害を受けていない地震に、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に匹敵するストレスを感じることもわかっており「中枢性の感受性症候群」との考え方も出てきている。また、自律神経をつかさどる視床下部周辺に何らかの変化があるために、さまざまな自律神経症状が現れる、と指摘する研究者もいる。

 日本線維筋痛症・慢性痛学会理事長で、順天堂大学練馬病院メンタルクリニックの臼井千恵・先任准教授は「かつては心因性などと呼ばれ、『そんな病気はない』と言われる時代もあった。脳から生じる痛み、と明確に定義された意義は大きい」と話す。

 診断の指標となるマーカーはなく、血液検査や、X線、MRI(磁気共鳴断層撮影)などの一般的な画像検査では異常が見つからない。診断には、過去1週間の全身の痛みの広がりや、疲労感、起床時の不快感、頭痛や抑うつ気分などの有無を点数化する、米国リウマチ学会の診断基準(10、11年)が汎用(はんよう)されている。あわせて、全身の18カ所にある圧痛点(筋肉や腱(けん)と骨の接合部)に痛みがあるかを確認する検査を行うこともある。

医師「熱中できることを探して」

 治療は、神経の興奮を抑える鎮痛薬のプレガバリン(商品名リリカ)や、痛みを抑える効果がある抗うつ薬のデュロキセチン(同サインバルタ)が、保険適用されている。これらの薬剤を基本に、運動療法や認知行動療法、倦怠(けんたい)感や痛みなどを和らげる効果が期待される点滴薬などを併用する。

 自己肯定感を保ち、意欲をもって生活が送れるようになることが、治療のゴールだ。

 湘南よこた医院(神奈川県藤沢市)の横田俊平院長は、症状を悪化させる3大要因に、月経周期、気圧の変化、ストレスを挙げる。「日常生活では、絵を描くなど熱中できる好きなこと・楽しいことを探すことが大切です」と話していた。(鈴木彩子)

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