医師不足や地域ごとの偏在を解消しようと、2009年度に始まった茨城県の「医学部地域枠」制度が拡大している。15年経って県内の医師数は増える一方、人口10万人当たりの医師数で見ると少ない状況が続く。

 医師に勤務先として選ばれる県をめざし、さまざまな取り組みを進めている。臨床研修先としての魅力を高めるために県内の指導医体制を充実させたり、県内へのUターンなどを希望する医師と医療機関をマッチングさせたりといった内容だ。

 これらに加え、医師になる前の段階でアプローチするのが地域枠だ。将来の一定期間、茨城に勤務することを条件に、県が貸与した修学資金の返還を全額免除する。

 地域枠は09年度、県内出身者を対象に筑波大に設けた5人の枠から始まり、東京医科歯科大や順天堂大など県外の大学にも拡大。15年度からは、出身地域を問わない枠も設けた。今年度は県内外の11大学70人まで増やした。4月1日時点で、制度を利用した医師223人が県内で働いているという。

 医師数は全国的に増えており、県内でも増加傾向だ。

 厚生労働省の調査によると、地域枠が設けられる直前の08年、県内の医師数は4805人。人口10万人当たりの医師数は162・1人だった。22年に6029人まで増え、10万人当たり212・3人の医師がいる計算だ。

 ただ、都道府県別でみると、10万人当たりの医師数は08年から22年まで全国ワースト2位。県医療人材課の担当者は「人口規模が全国11位にもかかわらず、県内で医学部を設置している大学が筑波大のみというのも影響している。今後、地域枠を利用した医師が定着することで、効果が表れてくるのでは」と分析する。

 地域ごとの医師の偏在も課題だ。厚生労働省が定める、人口10万人あたりの医師数に地域の人口構成や年代ごとの受診率などを加味した「医師偏在指標」では、上位3分の1を「医師多数」、下位3分の1を「医師少数」と位置づける。県内では水戸とつくばの医療圏は「医師多数」とされる一方、県北や県西、鹿行地域は「医師少数」とされている。

 地域枠では、9年間の県内勤務のうち、4年半以上を医師不足地域の医療機関で勤務することも求める。地域が限られる中でも、専門性を高めるために勤務先を柔軟に選べるようにするといった制度の見直しも進めてきた。

 県の担当者は「キャリア形成に支障をきたすことなく、医師不足地域を支えてもらえるようサポートしたい」と話した。(宮廻潤子)

     ◇

 医学部地域枠の第1期生で、この春まで9年間県内で勤務した医師2人が、大井川和彦知事から4月に感謝状を受け取った。2人は「今後も県内で働き続けたい」と語った。

 消化器外科の川嶋久恵さん(33)=つくば市出身=と、消化器内科の小野田翼さん(35)=日立市出身。ともに筑波大医学類で学んだ。

 川嶋さんは、医師不足が深刻な県北地域にある高萩協同病院(高萩市)などを経て、現在は筑波学園病院(つくば市)に勤める。勤務地が限定されることについて、「自分の選択肢が狭まったわけではなく、地域の病院と人脈を作る機会を設けてくれた」と振り返る。医師不足地域での勤務については、「手術症例数も多く経験できた」と話した。

 小野田さんは、研修先だった水戸医療センター(茨城町)でいまも働く。「県内の病院は、専門性を磨くという点で技術的に見劣りすることはない」と感じたという。(富永鈴香)

     ◇

 〈茨城県の医学部地域枠制度〉 医学部卒業後、茨城県内の医師不足地域での4年半の勤務を含め、県内の医療機関に計9年間勤めることで、貸与された修学資金の返還を全額免除する制度。24年度は国立大で月20万円、私立大で月25万円の修学資金を貸与する。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。