AEDに命を救われた経験から、講演を続けている牛田尊さん=中日新聞社で

 一般市民に自動体外式除細動器(AED)の使用が解禁されて、今年で20年を迎えた。設置台数は増えたが、積極的に使われているとは言い難い。2005年の愛・地球博(愛知万博)の会場で救命された男性は「心停止も救急救命もひとごとではない」と訴える。(藤原啓嗣)  「いまだにあの場面を思い出すと泣ける」。愛知県東郷町の設計士牛田尊(たかし)さん(61)は、自身の命を救った人たちへの感謝から、目を潤ませる。  05年6月1日、牛田さんは同県長久手市の愛知万博の展示会場前で並んでいて、突然意識を失った。そばにいた横浜市立大医学部の学生4人がAEDを使い、一命を取り留めた。  万博会場にはAED103台が設置され、医師や看護師、救急救命士が待機。牛田さんは近くの病院に入院中、こうした体制を整えたからこその救命だったと知った。その後、各地の学会や学校、救命講習で自身の体験を伝えている。「心停止への処置が1分遅れるたびに救命率は10%下がると言われる。使用をためらわないで」と訴える。  日本での普及は、高円宮憲仁さまが02年に東京都内のカナダ大使館でスカッシュをしている最中に突然倒れ、心室細動で亡くなったことが一つの契機となった。心室細動は心停止の原因となる不整脈。心臓がけいれんを起こし、全身に血液を送るポンプ機能を失う。AEDは心臓に電気ショックを与え、正常に戻す。  当時は、医師や航空機の乗務員のみ使用が認められていた。日本循環器学会は、一般市民の使用を推進するよう厚生労働省に提言。04年に市民の使用が認められると、公共施設や学校、大規模商業施設が設置するように。牛田さんを含め、東京マラソンなど大勢の人が集まる催しでAEDを使って救命された人の様子が報じられ、その効果が知られるようになった。  一方、11年にはAEDがあったが使われず、さいたま市の小学生が亡くなった。保護者の活動もあり、さいたま市教委は、教職員用の対応マニュアル「ASUKAモデル」を作成。倒れた人の呼吸の有無が分からない場合も、迷わず心臓マッサージとAEDの使用を求めており、学校での積極的な活用を促した。  日本AED財団の常務理事で、東京慈恵医大の武田聡教授は「AEDは当たり前にあるものになったが、市民が使うのは当たり前になっていない。小中学校から使用方法を学ぶ教育を始めるのが有効だろう」と指摘する。  牛田さんは「6月1日を私の第二の誕生日として家族で毎年振り返っている。無事に社会復帰できたのがどんなにありがたいか」と感謝の気持ちを述べた。

◆設置増えても使用率4%台

 AEDは推計で67万5千台設置され(2022年)、14年から20万台以上増えた。総務省消防庁の「救急・救助の現況」によると、心停止が目撃された後、市民がAEDを使い、1カ月後に生存した人は19年に703人と年々増加。コロナ禍で一時減ったものの、05~22年で累計7656人が救命された=グラフ。  一方、22年に心停止で倒れた場面が目撃された2万8834人のうち、市民がAEDを使用したのは1229人で、使用率はわずか4.3%。現場の近くになかったか、設置場所が分からなかったことなどが低い要因とみられる。  日本救急医療財団は対策として、全国のAEDの場所を示すホームページやアプリを充実させている。また、女性に使う場合にためらうことがないよう、倒れた人を周囲の視線から守る専用テントなどを一緒に備えるAEDもあるという。


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