内視鏡の映像をモニターで確認しながら、患者の尿道から入れたレーザーで腫瘍を気化させる梶川さん(左)=愛知県長久手市の愛知医科大病院で
腎臓でつくられた尿がたまる部分「腎盂(じんう)」や、そこからぼうこうに至る尿の通り道「尿管」にできたがんを治療する手段として、レーザー内視鏡治療が注目されている。腫瘍の大きさなど条件はあるが、体への負担が少なく、腎臓を温存できるなどのメリットがある。 (佐橋大)◆全摘出が一般的
愛知県安城市の男性(66)は今夏、健康診断のオプション検査をきっかけに、右の腎盂にがんがあることが分かった。自覚症状はなく、治療の基本は「腎臓と尿管の全摘出」と聞いて驚くばかり。「腎臓を失うのはたとえ片方でも、透析に直結しそう」で不安に襲われた。医師に「レーザー治療で全摘を回避できるかもしれない」と告げられ、愛知医科大病院(同県長久手市)を紹介してもらった。 腎盂や尿管にできる「腎盂・尿管がん」は、一連の組織として腎臓と尿管を全摘する治療が一般的。開腹のほか、腹腔(ふくくう)鏡、ロボットを用いて手術をする。ただ、治療ガイドラインでは例外として、腫瘍の悪性度が低い、大きさが2センチ未満などの条件を満たせば、腎臓の温存も選択肢に入る。 温存には部分切除とレーザーによる治療がある。部分切除は、さまざまな制約があり適用可能な症例は尿管がんのごく一部。一方、最新の「ハイブリッドツリウムレーザー」は腫瘍の蒸散と止血が1台でできるなど進歩し、部分切除できない腎盂の腫瘍などにも対応できるようになった。「レーザーは腎臓を温存する治療の可能性を広げる」と同大泌尿器科助教の梶川圭史さん(41)は話す。 手術は、内視鏡を誘導するワイヤを尿道から入れて、腎盂まで届ける。次いでワイヤを頼りに、光ファイバーを備えた、直径1・3ミリの内視鏡を尿管、腎盂へと進め、「ツリウムレーザー」と呼ばれる特殊な光を、腫瘍に当てて狙い撃ちにする。◆高温 腫瘍が蒸散
記者は10月にあった手術の様子を見せてもらった。手術室のモニターには内視鏡が映す腎盂内の腫瘍が大映しに。術者の梶川さんが手にした機器を操り、レーザー照射のボタンを押すと、「ピピピピ」という音が鳴ると同時に、モニター上では腫瘍が蒸散され、白い泡のようなものが映った。高温で気化しているのだという。手術は全摘だと倍以上かかるところ、約2時間で終了。男性は2日後に退院した。術後は定期的に検査し、必要があれば、追加の治療をする。 内視鏡を使ったレーザー治療での5年後の腎温存率は、悪性度の低い腫瘍なら96・4%だが、高いと20%まで低下する。このため、レーザーでの治療は、悪性度の低い腫瘍を対象にすることが推奨されている。 課題もある。現状では、どの医療機関でも治療が受けられるわけではない。対応するレーザー機器がある医療機関は限られる上、機器を巧みに操れる技術がなければ治療できない。梶川さんは「腎盂・尿管がんにも、腎臓を温存する治療法があることを知ってほしい。治療に悩んでいる方は、かかりつけ医に一度、相談してみては」と提案する。<腎盂・尿管がん> 初期は無症状のことが多い。腫瘍が大きくなると、尿に血が混じることも。2019年に全国で診断された人は8823人。
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