高齢者を悩ませる問題の一つに、前立腺肥大などで尿が全く出なくなったりする「尿閉」がある。認知機能などが低下した患者では尿道にカテーテルを入れたままの場合が多く、患者が勝手に抜いて大出血を起こすなどのトラブルも少なくない。そうしたトラブルを減らすため、レーザーを使った前立腺肥大の手術で早期に脱カテーテルにつなげる取り組みが注目されている。(大森雅弥)  専門医によると、尿閉は前立腺肥大症、尿道狭窄(きょうさく)などによる尿道閉塞(へいそく)や、膀胱(ぼうこう)が尿を押し出せない低活動膀胱によって起きる。男性の患者が多く、70代の10人に1人、80代の3人に1人が経験者という。  前立腺肥大による尿道閉塞なら内視鏡手術などで前立腺を除去するのが一般的だが、出血が多い手術を高齢者に行うのはハードルが高い。しかも、完全に尿が出ない状態だと原因が閉塞なのか低活動膀胱なのか分からず、手術しても尿が出ない恐れがあり、回避する医療機関が多い。  対策としては、尿道からチューブを入れて排出する導尿という方法がある。やり方を覚えれば患者本人でもできるが、認知機能や身体機能が低下した高齢者では難しく、家族も敬遠しがち。介護施設では看護師が常駐していないところが多く、訪問看護でも診療報酬上、1日に1回しかできない。  このため、そうした患者では尿道にカテーテルを入れたままにして袋に尿をためる方法を取る場合が多い。10年ほど前に発表された実態調査では、留置カテーテルの割合は老人保健施設では入所者の5・7%、訪問看護ステーションでは対象者の11・8%だった。

◆認知症 導尿難しく

レーザーで肥大した前立腺を除去する光選択的前立腺蒸散術(PVP)のイメージ図(ボストン・サイエンティフィック ジャパン提供、一部改変)

 ただ、留置には問題が多い。長期だと最悪の場合、陰茎が裂けることがある。認知症の患者がカテーテルの必要性を理解できずに抜いてしまい、大出血を起こすことも珍しくない。何より、尿を他人に見られることなどで患者の尊厳が損なわれる。医療者にとっても、カテーテルを入れる際に患者が暴れることがストレスという。  そんな患者の脱カテーテルを進めているのが、国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)だ。取り組みを主導している研修開発研究室長で泌尿器科医の西井久枝さん=写真=によると、17年から積極的に、肥大した前立腺をレーザーで除去する「光選択的前立腺蒸散術(PVP)」という手術=イラスト=を行い、成果を挙げている。  PVPの利点は、従来の手術より出血が少なく早ければ半日でカテーテルを外すことができること。三重県四日市市の男性(79)は脳出血などで歩行困難になり介護施設に入所中。昨年9月に尿閉になり、入院先でカテーテルを留置されたが、今年2月に同センターでPVPを受け、カテーテルから解放された。  同センターで尿閉によりPVPを受けた75歳以上の男性は昨年3月末までに39人。存命の37人のうち、身体・認知機能が良好な19人全員と、機能が低下している18人中16人が、術後1年でも、脱カテーテルを実現できている。

◆「尊厳を守りたい」

 西井さんは「PVP自体は前からある方法だが、術前術後の管理が難しいため、認知機能や身体機能が低下した高齢者にはあまり行われてこなかった。PVPを受け、残りの人生をカテーテルなしでいられたら本人も周りも幸せ。できる限り患者の排尿の尊厳を大事にしたい」と話している。


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