魚介類の寄生虫の一種、アニサキスが付いた魚やイカを生で食べると、激しい腹痛を引き起こす「アニサキス症」。その上、アニサキスを原因とするアレルギーが専門医の間で注目されている。死骸に含まれるタンパク質の成分を摂取するだけで、人によっては激しい症状が出るため、注意が必要という。(佐橋大) 「大人で魚のアレルギーという人の多くが実は、アニサキスアレルギー」。愛知県豊田市の豊田地域医療センター・アレルギーセンター長の中村陽一さん=写真=は指摘する。 中村さんらは2005年から10年間、食物アレルギーの症状が出たという成人患者約800人を診察。その14・1%が、初診時にアレルギーの原因を「魚類」と考えていた。しかし、実際に調べると魚が原因物質だったのは、2・1%にとどまり、アニサキスが原因という人はその4倍近くいた=グラフ。今年4月、中村さんが同センターに赴任後も、既に1人の患者をアニサキスアレルギーと診断。「『実はアニサキスのアレルギーだった』という傾向は、最近さらに強まっている」
人間をウイルスなどの外敵から守る免疫が、食物に含まれる特定のタンパク質に過剰に反応し、じんましんや皮膚の赤み、呼吸困難、嘔吐(おうと)、腹痛などを引き起こすのが食物アレルギーだ。アニサキスは食物ではないので、分類上は「食物関連のアレルギー」となる。 アニサキスで症状が出る人の体の中では、過去に食べた魚に含まれていたアニサキスのタンパク質を攻撃する抗体が多く作られている。つまり、「アレルギーの準備状態」になっているところに、同じタンパク質が再び入ると、アレルギー症状を引き起こす。生命にかかわるアナフィラキシーになる人も。症状が出るのは、魚介類を摂取してから15分~数時間後が多い。
◆血液検査などで診断
症状は食物アレルギーと変わらず、症状だけでアニサキスアレルギーを特定するのは困難。同センターでは、血液中に、アニサキスの成分に反応する抗体が、どのくらいあるかを調べる検査などで特定する。ただ、多くの医療機関がアニサキスの検査を実施していない可能性が高いといい、「魚を食べると症状が出るのに、その魚の抗体価が低いという結果が出たら、アニサキスの抗体価についても調べることを検討してもらっては」と助言する。
◆生食避けて薬で対処
アニサキスの寄生率の高い魚介類は、サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなど。生魚を食べたときの方が出やすいが、加熱したものでも出る可能性はある。「アニサキスアレルギーだと分かったら、魚介類の生食を避けることや、重症度に応じて、アレルギー症状を抑える抗ヒスタミン薬、アドレナリン自己注射薬『エピペン』などを持っておき、対処することが大切」(中村さん) なお、同じような症状は、魚の不適切な管理で作られる物質「ヒスタミン」によって起きる「ヒスタミン中毒」でも出るため、その見極めも必要だ。さらに、アニサキス症の腹痛にも、アニサキスアレルギーが関与している可能性が高い。その場合、アレルギーの症状を抑えるステロイド薬を投与すると、痛みが抑えられることが知られている。
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