パーキンソン病は、運動の制御に関わる脳内物質「ドパミン」をつくる神経細胞が減り、運動機能に障害が出る難病だ。国内の患者数は推定14万人ほど。5~10%ほどは家族内に発症した人がいるが、ほとんどは家族に遺伝しないタイプとされる。40歳未満の患者は極めて少なく、年齢が上がるほど増える。

 社会の高齢化に伴う患者急増は「パーキンソンパンデミック」とも呼ばれ、世界的に警鐘が鳴らされている。

 症状には、体の震え(振戦)▽動作の遅れ(運動緩慢)▽手足のこわばり(筋強剛)などがある。進行すると、安定した姿勢を保てず、転倒しやすくなるといった症状も出る。かつては「発症10年で寝たきり」とも言われたが、薬や専用の医療機器による治療で良好な状態を長く保てるようになった。

 薬で症状を抑える治療が基本となる。腸で吸収され脳内でドパミンに変わる内服薬「L―ドパ」が中心だ。L―ドパの分解を防ぐ薬、脳内でドパミンを受け取る受容体を直接刺激する薬などもある。

 病気が進むと、血中のL―ドパ濃度の変動が急になり、薬が効きにくくなったり、効きすぎたりする。効きすぎると、自分の意思と関係なく手足がくねくね動く「ジスキネジア」と呼ばれる副作用が出ることもある。

 血中のL―ドパ濃度を一定に保つため、胃ろうをつくり、チューブから腸に直接薬を注入する方法もある。おへその周りに針を刺して専用機器から薬を注入する、より負担の小さい治療法も昨年7月から使えるようになった。

 薬で症状のコントロールが難しくなると、手術で脳に電極を埋めこむ「脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)」が選択肢となる。運動を制御する脳部位を直接電気で刺激。症状を抑え、薬の量を減らすことが期待できる。充電式で15年ほど電池交換が不要だったり、脳波を測り自動で電気刺激を調節したりする機器もある。

 パーキンソン病に詳しい順天堂大の服部信孝教授は「病気の進行は止められないが、適切な治療で症状を抑え、健康な人と同じような生活が送れるようになってきている」と話す。早期の診断や治療により、その後の経過は良くなるという。「動作が遅くなったり震えが出たりしたら、神経内科などで検査を受けてほしい」

 より効き目が長いL―ドパの内服薬の開発や治療デバイスの改良が進んでいる。iPS細胞などをドパミンをつくる神経細胞に変化させて脳内に移植する臨床試験(治験)も国内外で進められている。

 また、脳内にたまりパーキンソン病発症の原因になるとされる「αシヌクレイン」というたんぱく質のかたまりを除去する治療薬の研究なども注目されているという。

 服部さんは「いまある治療法はすべて対症療法。病気そのものの進行を抑制するような治療法の開発が、今後いっそう重要になる」と話した。(野口憲太)

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