読者から届いたメールや手紙(一部画像処理)

 高齢者が完全ネット予約のクリニックに直接来院したものの診療を断られた事例を紹介した5月21日の記事には、たくさんの感想や意見が届いた。デジタル化の進展に対する不安の声が多く寄せられた一方、さまざまな患者への対応に悩む医療従事者の意見もあった。投稿の一部を紹介し、今後の議論の参考にしたい。 (大森雅弥)

5月21日付の記事「ネット使えないお年寄り、お断り?」はこちらから

 投書では、デジタル化の進展の早さに驚き、不安や怒りを訴える声が多く寄せられた。  千葉県の男性(76)は「ついに時代はここまで来てしまったのかと暗たんたる思い」と嘆いた。福岡県のパート女性(52)は、経済的な理由でスマートフォンを持っていなかったりスマホの使い方を教えてくれる人が身近にいなかったりする人が周りに多いとして「個人病院でデジタル(予約)がメインになったとき、そういう方のフォローは誰がすればいいのか」と心配する。  千葉県の50代の男性は医療以外でもネット予約が広がっているとして「デジタル化に対応しきれない人が切り捨てられないように、公平・平等が保障される世の中であるように切に願います」と訴える。  一方、クリニックもデジタル化でコスト削減しないと厳しいとして、高齢者自身も努力が必要との声もあった。ある女性はそのためには「高齢者へのIT教育やサポート体制の強化が求められる」と指摘した。  「一人も取りこぼさない医療というのは理想論として聞こえはよいが、無理がある」という厳しい意見も。愛知県の60代の男性は、本当にとりこぼしてはいけない人にまで手が回らなくなる事態を避けるために「どのように優先順位をつけるかを真剣に議論しないと。私は若者に譲る覚悟を決めている」と言う。  医療機関や医療従事者からは切実な声が寄せられた。東京都内でクリニックを経営する女性医師(31)はネット予約を導入しているが、高齢者に配慮して予約なしの人も合間に診察することにしている。問題は予約なしの患者の診療が延びてしまうケースがあること。予約患者が待たされることがあり、悪い口コミが増えたという。「どうしたらみんながハッピーになるか。いまだに解決策が見つからない」  便利なはずのネットで取り残される人がいるのは真の「便利」ではないというのは都内の看護師の女性(59)。「クリニックの対応として、今は無理でも再来院すれば診療できる時間帯を設ける、ほかのクリニックを探す医療相談の電話番号を案内するぐらいの優しさがほしい」と指摘。利用する側の防衛手段としては、常日頃から来院すれば診てくれるかかりつけ医をつくっておくしかないと言う。  今回の事例や読者の意見を識者はどう見るか。九州大名誉教授の安立清史さん(67)=福祉社会学=は「今回の問題は高齢者のデジタル格差というだけでなく、病院や医療スタッフ、働く時間などの限られた医療資源をどう提供するのかという問題にもつながる」と指摘。その上で「医療資源が十分でない今、災害時などに限定されるべき救命の順位付け(トリアージ)の論理が、コロナ禍を経てデジタル化が進んだ日常にも拡大し、ネットが使えない高齢者を切り捨てることになるとしたら恐ろしいことだ」と話した。 

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