在宅療養の高齢者が増える中、「いつもと違う」と体調の変化に気付いた時、かかりつけ医などに連絡するかどうか、家族やヘルパーなどが判断に迷うケースが増えている。様子を見ようと決めたものの不安になったり、「こんなことで深夜に電話してこないで」「何でもっと早く報告しなかったのか」などと言われないか心配したり-。ベテランの訪問診療医は「まず24時間連絡のつく医療機関や訪問看護事業所と契約することが大切」と話す。 (五十住和樹)  東京都内で80代後半の母親を介護していた50代の女性は、夜中に38度近くの熱が出た母親を前に、かかりつけ医に電話するかどうか迷った。翌朝に診療所に行って、結局は大事に至らずに済んだが、女性は「電話したかったが、夜中だったので」と振り返った。  女性の担当ケアマネジャーは「#7119(救急安心センター事業)という相談窓口がある」と伝えた。医師や看護師ら専門家が電話で答えるが、事業をしていない地域も多い。  2006年から東京などで訪問診療を展開する医療法人社団悠翔会理事長の医師佐々木淳さん(50)は「早く電話してほしかった、という事例は多い」と話す。  要介護3の90代女性は37・8度の熱が出た。いつもより食事も水分も取れず、少しぐったりしていたが、家族は「微熱だから」と連絡せず、3日後の定期訪問で重い誤嚥(ごえん)性肺炎と判明。佐々木さんは「肺炎は高熱やせきというイメージだが、高齢者は典型的な症状が出ないこともある。発熱してもいつも通り食事ができていたらよいが、複数の症状が組み合わさると注意が必要」という。

◆緊急度ガイド刊行

 「家庭や老人ホームなどで、医師に連絡すべきか迷うケースはよくある」と、総合診療が専門の筑波大教授で付属病院副院長前野哲博さん(57)。「家族や福祉職が判断する根拠になれば」と考え、「医療職のための症状聞き方ガイド」(医学書院)の編集を担当した。タイトルは医療職向けだが、患者側にも役立つ内容にしたという。  この本では、すぐに受診すべきか、様子見でよいかを判断することに内容を絞った。症状別に、(1)すぐに受診(2)数日中に受診(3)ひとまず様子をみていい-などのマークを付けた緊急度判断チェックリストを掲載。「(症状は)いつから」「痛みの強さは」など患者の診断・治療に必要な情報として確認すべき事項もまとめた。  例えば、発熱やせきなどの風邪症状のケース。のみ込みにくいような強いのどの痛みは急性喉頭蓋(がい)炎などの可能性があり、早急な受診が必要。のどの痛み、せき、鼻汁の3症状が同時期からあって発熱が3日未満なら、「典型的な風邪」で緊急性は低い=図。  腰痛の場合、安静時に痛む急性の腰痛は緊急度が高い。尿路結石や膵炎(すいえん)、腎盂(じんう)腎炎など内臓疾患の可能性があり、急いで受診する必要がある。急に発症し、下肢のしびれなどがある腰痛も脊髄に病変がある可能性があり緊急度は高い。

◆24時間往診確認を

 佐々木さんによると、訪問診療医の中には、夜は電話に出なかったり、「救急車を呼べばいい」と言ったりする医師もいるといい、「24時間往診してもらえるか、と確認することが大切」という。また「在宅療養では患者や要介護者にどんなことが起きる可能性があるのかを、事前に主治医からきちんと聞いておくと、安心してケアできる」とアドバイスしている。


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