片頭痛を予防する注射薬「CGRP関連抗体薬」のサンプル=岐阜市の朝日大病院で

 日本人の4人に1人が悩むつらい頭痛。治療が進歩し、特に片頭痛は予防療法が主体の時代に変わってきている。一方、病院に行くほどではないという認識も根強く、近年は市販薬の使いすぎによる頭痛も問題になっている。専門医らは「たかが頭痛だと軽視せず治療を受けて」と呼びかける。 (熊崎未奈)  そもそも頭痛といっても症状や原因はいろいろ。国際頭痛分類によると、診断名は300種類以上ある。いわゆる「頭痛持ち」が悩む慢性的な頭痛には、片頭痛のほか、肩こりを伴い、頭全体が締め付けられるように痛む緊張型頭痛や、目の奥の激しい痛みが連日続く群発頭痛などがある。  その中で、片頭痛は、脈を打つような痛みが4~72時間続くのが特徴だ。片側に起こることが多いが、両側に痛みを感じる人も少なくない。頭の痛みだけでなく、光や音、においに過敏になる、吐き気や嘔吐(おうと)といった症状も出る。ストレスや月経、睡眠不足や寝過ぎ、気圧などさまざまな要素が引き金になる。  動くと悪化するため、日常生活に支障を抱える人が多い。岐阜市の看護師の女性(47)は、仕事や育児が忙しくなった30代前半から、片頭痛に悩まされるようになった。  月の半分は痛みと吐き気があり、市販の痛み止め薬は常に手放せなかった。薬を飲んでも抑えきれず、仕事中に吐くこともあったが「これくらいで受診していいのかな、と思って我慢していた」と言う。  一方、片頭痛の治療はここ数年で大きく進歩してきた。痛みが出てから抑える急性期治療薬に加え、2021年に「CGRP関連抗体薬」と呼ばれる新たな予防薬が保険適用に。3種類あり、いずれも注射薬だ。  CGRPは「カルシトニン遺伝子関連ペプチド」という神経伝達物質。片頭痛が起きる仕組みははっきりとは分かっていないが、光などの刺激によって、CGRPが三叉(さんさ)神経という脳神経から過剰に放出されることで神経の炎症や血管の拡張が起こり、それが脳に伝わって頭痛発作が起こると考えられている。新薬はCGRPの働きを抑えたり、CGRPが受容体にくっつくのをブロックしたりする。  朝日大病院(岐阜市)麻酔科の頭痛専門医、下畑敬子さんは「これまで抗うつ薬などを予防薬として使う方法があったが、この新しい予防薬は頭痛の病態に基づいて作られたため、効果が早く副作用も少ない。今までの治療薬で症状が軽減しなかった人にも効くことが多い」と話す。7~8割の患者に効果があり、症状が半減した人や、ほぼなくなる人もいるという。  片頭痛に悩んでいた前述の看護師の女性は昨年12月、新薬の使用を開始。月の半分あった頭痛は月2~3回に減り、仕事や家事に集中できるように。薬を持ち歩くことも減った。「頭痛に支配されていた生活から解放された」と喜ぶ。  3種類の新薬はいずれも基本的に月1回、注射する。副作用は少ないが、まれに重篤なアレルギー症状が出ることもある。一方、費用が高いのが課題で、3割負担で1回約1万~1万3千円かかる。  日本頭痛学会などによるガイドラインでは、急性期治療薬を使っても日常生活に支障があり、従来の予防薬の効果がない人を対象としている。下畑さんは「片頭痛は治療の選択肢が増えている。我慢せず、病院を受診してほしい」と呼びかける。

◆市販薬の飲みすぎで悪化 つらい頭痛、専門医受診を

 日常生活に支障をきたし、多くの人が悩む頭痛。新たな治療薬が登場している一方で、医療機関を受診しない人は多い。製薬会社日本イーライリリーが2021年に発表した調査によると、片頭痛の症状がある1万7千人のうち、一度も病院を受診したことがない人は4割に上った。  市販薬でしのぐ人も多い中、近年、大きな問題になっているのが「薬剤の使用過多による頭痛(MOH)」だ。もともと頭痛が日常的にある人が、市販薬や処方された頭痛薬を過剰に飲むことでさらに頭痛が悪化し、慢性化する状態という。 ◆脳の中枢に影響  朝日大病院の頭痛専門医で、「慢性頭痛と痛みの外来」を開いた下畑敬子さんは「MOHの患者さんは外来でも非常に多い」と話す。  頭痛薬を使う頻度が高すぎると、脳内の痛み中枢が敏感になり、少しの刺激でも頭痛が起きるようになる。頭痛が慢性化し、さらに薬を飲む回数が増え、また頭痛が起きるという悪循環に陥る。  国際的な診断基準によると、頭痛が月に15日以上あり、頭痛薬を3カ月以上、定期的に使用している場合、MOHに当てはまる可能性がある。

慢性頭痛と痛みの外来で、患者の頭痛の頻度や程度を聞き取る下畑さん(右)=岐阜市の朝日大病院で

 使用の頻度の目安は薬の種類によって異なるが、市販薬の飲み方に詳しい横浜市西区薬剤師会理事の鈴木伸悟さんは「月10日以上、なんらかの頭痛薬を飲んでいる人は病院を受診した方がいい」と目安を示す。 ◆成分見て選ぼう  鈴木さんによると、市販薬の場合、商品の選び方にも注意が必要だという。市販薬には、ロキソプロフェン、イブプロフェンといった痛み止めの成分のみが入った単剤と、これらの成分に加えて無水カフェインやブロモバレリル尿素などの鎮静成分が入った配合剤がある。  商品数では配合剤が圧倒的に多い。ただ、配合剤に含まれるブロモバレリル尿素などの鎮静成分は依存性があるとされる。鈴木さんは「まずは単剤を選んだ方がいい」と勧める。 ◆いつ飲むか 重要  飲み方にも注意が必要だ。頭痛が起きる前に予防的に飲むと、痛みが慢性化しやすい。鈴木さんは「痛みが出始めたらすぐに飲むのが効果的。逆に痛みを我慢するのもよくない」と説明する。  その上で、「市販薬は病院で処方される薬よりも成分が弱いから大丈夫、と思っている人もいるがそうではない。間違った選び方、飲み方で頭痛を引き起こす恐れがある。また、効き目がないと感じる人は一度しっかりと治療を受けてほしい」と呼びかける。  下畑さんによると、MOHの治療は、原因となる薬をやめることが第一歩。あわせて、頭痛の頻度を減らすためにCGRP関連抗体薬などの予防薬を使う。頭痛の頻度や痛みの程度、薬の服用状況を記録する「頭痛ダイアリー」を使い、自身の症状を把握することも大事だという。  もともとの頭痛の原因が何か、明らかにするのも治療の上では重要。ときにはくも膜下出血や脳腫瘍といった命に関わる病気や、うつ病や目、鼻の病気などによる頭痛の可能性もあるからだ。下畑さんは「たかが頭痛と軽視せず、治療が必要な疾患だという認識を持ってほしい」と呼びかけ、専門医への相談を勧める。  日本頭痛学会が認定する頭痛専門医は、同会のホームページで確認できる。 (熊崎未奈)


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