救急車で搬送する患者の情報を画像や音声で病院に送る実証試験を、山口県宇部・山陽小野田消防局と、関連する9医療機関が3日に始めた。病院へ患者が到達する時間を短縮し、より正確な情報を伝えるのが狙いだ。

 5月31日に、宇部中央消防署で報道機関向けのデモンストレーションがあった。

 50歳の男性がデスクワーク中に突然胸の痛みを訴え、同僚が救急要請したという想定だ。救急車内で、隊員が男性の免許証、お薬手帳、脈拍や血圧を映す患者モニターをタブレットで撮影し、心電図の画像も記録した。痛みが30分続いたことや、心電図の特徴は音声で入力した。

 搬送を希望する病院にこれらのデータを送信した上で電話したが、別の患者に対応中とのことで受け入れは「不可」。次の病院にも同じデータを送信し、「薬情報、バイタルは送った通り」と電話で伝えると、今度は受け入れが決まった。

 救急隊と病院がやりとりする手段は現在、電話のみだ。受け入れ先がなかなか決まらず、新たな病院と交渉するたびに患者についての同じ情報を繰り返し説明しなければならない。これが現場で時間を費やす原因の一つになっている。同消防局管内の救急隊が現場に滞在する平均時間は25・8分(2023年)だった。現場についた救急隊が血圧や脈拍を測定し、聞き取りなどで患者の状態を把握するのに一定の時間がかかる。さらに受け入れ先が決まるまでの交渉回数が増えた場合、なかなか出発できないからだ。

 画像や音声を送信する今回のシステムを使えば、交渉の時間短縮につながる。受け入れる病院側では、患者の到着前からカルテを作り始め、外傷などの画像を見て処置の準備を進めることができるという。

 デモンストレーションに参加した山口大医学部付属病院先進救急医療センターの藤田基准教授は、「電話で心電図の結果を伝えるのは難しいが、写真で見られると正確に判断できる。現場の情報が非常に伝わりやすい」と評価する。

 このシステムは東京の医療ベンチャー企業が提供している。管轄内の各病院が搬送を受け入れたのか「不可」だったのか、「交渉中」かをリアルタイムで把握できる。「不可」だった理由も分かり、救急隊がどの病院と交渉すればいいかを判断する助けになる。

 実証試験は、消防局の車両10台、救急隊10隊のすべてで月末まで行う。7月以降、搬送までの時間が短縮できたかを分析する。携わった救急隊員や医療従事者にアンケートしてシステムを検証し、本格導入の可能性を探る。(青瀬健)

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